薄明光線


リンギット

成瀬 勇

詠村 紗

 

ルピア

ドン

セディ

リエル

ズウォティ

 

梶浦 大知

御子柴 善治郎

 

日村 渚

A(光一)

B(遥)

 

ママ


 明転。場所、総務デスク。

 リンギット、ドン、ルピア、セディ板付き。

 それぞれ仕事をしている中、リンギットだけがサボって新聞を読んでいる。覗き込むルピア。

 

ルピア「またも十文字原発所前にてデモ。十文字財閥を罰せよ、ねえ」

リン 「ったく、んなことは無駄だってちったあ考えりゃわかんだろ」

セディ「国の税金が十文字に流れてるってことですもんね。裁こうにもその裁判員がこっち側の人間じゃ世話ありませんよ」

リン 「煽るだけ煽りやがって、こっちの面倒も考えろっつの」

ドン 「仕方ないさ。それをどうにかするのが俺達だ」

リン 「まーな。そりゃそうだけどな?一応ここって一般企業なわけだろ?それが私設軍だの裏工作員だのってちょっとした国かよ」

ルピア「税金が先か、生きるための電力が先か、まるで鶏卵論争ね」

リン 「たかが電力会社が国の実権握っちまってる時点でおしまいってことよ」

 

 ドアから資料を持ったリエルが登場。

 

リエル「そこで働く私達もまた同じ穴の狢ってわけね」

リン 「ゲ、噂をすればなんとやらですか?」

リエル「リンギット、ドン、ルピア。任務よ」

 

 三人に書類を渡す。

 

リエル「件のデモについて、反乱因子の拠点と思われる建物を特定したと軍から連絡が入ったの。よって主任より反乱因子捕縛の命が下ったわ」

ルピア「はい。この合流する兵士ってその後も同行するの?」

リエル「いえ、兵は見張りのみで私達が作戦の実行部隊よ」

リン 「おーおー、つーことはこの四人だけで捕縛護送まで完了させなきゃなんねえってことかよ。人手不足もここまでくると笑えるな」

リエル「上がってきた報告によると、当拠点に出入りしている人間は十名未満。私達だけでなんとかなると上が判断したのでしょう」

ドン 「未だ各地でデモが絶えないしな。軍も人手が限られている」

リエル「そういうこと。他に質問は?」

ルピア「私は大丈夫」

ドン 「俺も問題ない」

リン 「右に同じく」

リエル「では各自準備に入って。待機場所に到着次第連絡を怠らないように。ドンは私と一緒に爆薬の運搬へ」

ドン 「了解」

 

 ドン・リエルはドアへ、ルピアは上手へ、リンギット、セディは下手へはける。

 場所、ある一室。下手からリンギットと梶浦登場。

 

梶浦「数日前、別件で張り込んでいたのですがその際にたまたま」

リン「ふうん。で、あれがヤツらの拠点ねえ」

 

 双眼鏡を覗くリンギット。

 

梶浦「こちらで把握している限り、四人の出入りは確認しています。まだ中にいないとも限りませんが、それでも拠点規模から鑑みるに十名未満かと思います」

リン「成程成程、オーケー」

 

 リエルと連絡を取るリンギット。

 

リン「こちらリンギット。ああ、合流した。んで新情報だが兵士によると確認が取れてるのは四人らしい。報告書通り他に潜んでたとしても十いねえだろ。ああ・・・ああ、了解」

 

 通信を終え再び双眼鏡を覗くリンギット。無言の間。

 

梶浦「今回は何人で?」

リン「あ?四人だけど」

梶浦「よっ・・・!?」

リン「お宅さん同様こっちもカツカツでな。ま、元よりそんな人数いねえけど」

梶浦「それでよく回りますね」

リン「ブラック企業のいいお手本になると思うぜ、ウチ」

梶浦「う~ん、言えてますね」

リン「そっちは人数がいても上が上だからなあ」

梶浦「御子柴統括については返す言葉もないです」

リン「ロクでもねえ上司を持つと大変だな」

梶浦「でもリバースの仕事よりは精神的に楽じゃないかと」

リン「あーどうだろうな。どっこいどっこいだろ」

梶浦「当の本人でもそういう反応なんですね」

リン「ああ?そういうもんだろ。リバースだからって人の心がなくなるわけでもねえし、ましてや汚れ仕事なんざまっぴらごめんだっての」

梶浦「こんなこと聞くのもなんですけど、どうしてリバースに?」

リン「んーまあ、先に目についたってだけだ」

梶浦「先に目につきます?総務。しかもリバース」

リン「そういうこともあんだろ。んじゃそろそろ行くわ。地図とか色々サンキューな」

梶浦「え?ああ、いえ。では、健闘を祈ります!」

リン「おう、じゃーな」

 

 BGM(アップテンポ)、CI。リンギットは下手はけ。見送った後梶浦は上手はけ。

 BGM流れたまま明転。場所、反乱軍拠点。リンギット板付き。

 

リン 「あーあー、こちらリンギット。待機場所に到着。指示お待ちしておりまァす、どうぞー」

ルピア『ちょっと、気の抜けた声出さないでよ!こちらルピア、私も指定場所に到着したわ。どうぞ』

リエル『こちらリエル。私とドンも待機完了よ。リンギット、予定通り定刻に開始するから頼んだわよ』

リン 「了解。間違っても俺ごと爆破してくれるなよ?」

ルピア『その時は反乱軍の死体と一緒に回収してあげる』

リン 「カ~~、可愛くねえオンナ。お前彼氏いたことある?」

リエル『二人ともおふざけはそこまで。気を引き締めなさい』

リン 「はいよ」

ルピア『了解』

リエル『カウント5で開始。5、4、3、2、1・・・』

 

 天井に向かって発砲。SE銃声音と共にBGM、CO。

 

リン「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 リンギットの胸にレーザーサイトが現れ、直後SE発砲音。躱すリンギット。

 

リン「こりゃド素人だな。ハズレ掴まされたか」

 

 ぞろぞろと上下から反乱軍の人間三人が登場。

 次々と倒すが一人足りないことに気付き辺りを見回すと奥に一人いることに気が付く。

 

リン「ルピア!ポイントCを爆破しろ!」

 

 SE爆発音。ドアから日村登場。

 

日村「げほ、ゴホ・・・くそ!」

リン「日村渚。リストに載ってた重要人物がいなかったらそりゃ怪しむだろ?」

日村「アンタ・・・十文字の、違う方」

リン「ま、そういうこと。だから大人しく捕まってくれや」

日村「嫌だって言ったら?」

リン「多少手負いになっても仕方ねえよなあ」

日村「ゾッとする。国民の生活を支えるはずの電力会社が裏では人殺しを容認しているだなんて」

リン「下っ端の俺に言ったところで何も変わりゃしねえよ。俺はただ命令通りに任務をこなすだけだ」

日村「そうやってアンタ達はドブ水啜って生きるんだ」

リン「何啜ろうが死ぬよりマシだろ。寧ろ黙ってりゃ普通の暮らしができるのに、態々ドブ水啜ろうってんだから世話ねえよな」

日村「黙れ、十文字の犬」

リン「じゃあ、おしゃべりはここまでだな」

 

 殺陣。ある程度のところで間合いをとる二人。

 リンギットを遮るように上手から勇が登場。

 

勇「でりゃあああああ!!」

 

 日村に向かって剣を振るうも躱され逃げられる。下手にはける日村。

 急な展開に茫然と立ち尽くすリンギット。

 

勇 「クソ!逃げられた!」

リン「な、おま、逃げられたじゃねえよ!何してくれてんだ!!」

勇 「えっ俺は加勢に・・・」

リン「チッ、余計なことしやがって・・・!こちらリンギット、一人逃がした。日村だよ日村。あァ!?邪魔が入ったんだよ、犬が飛び出してきやがった!」

勇 「はあ!?まさか犬って俺のことじゃないだろうな!」

リン「ああ、残りの四人は伸びてる。さっさと頼むぜ。ああ、ああ」

勇 「おいアンタ聞いてんのか・・・」

 

 SE発砲音。勇に向かって発砲するリンギット。

 

リン「話しかけんじゃねえよ。黙ってハウスだ、いいな?」

勇 「っ、テメ、」

 

 一触即発の二人を割るように上手からルピア登場。

 

ルピア「リンギット、いつまで油売ってんのよ!さっさと回収して帰還!」

リン「はいはいわかってるっての」

 

 暗転。SE暴行音。拷問が行われている。

 場所、総務デスク。リンギット、ドン、ルピア、セディ板付き。明転。

 

セディ「ヒエ~~人体から聞こえる音とは思えない・・・」

リン 「気になんなら行って来いよ。処理させてもらえるぜ」

セディ「嫌ですよあんな地獄!てか処理ってなんですか。死体?死体なんですか?」

ドン 「死体の時もある。この分じゃ顔の原型は留めていないだろうがな」

セディ「尚更嫌だァーー!!ブラックだ、ブラックすぎる・・・何でこんなとこに就職したんだろ・・・」

ルピア「今のご時世慣れと諦めが肝心よ。特にこんな十文字財閥一強時代じゃね」

セディ「慣れたくない、諦めたくない・・・人間の尊厳を失う気がする」

リン 「つかよ。アイツ、アイツなんなんだよ!軍は見張りだけって話だったろ」

ルピア「リーダーはそう言ってたけど。乱入してきたのって最初に合流した?」

リン 「それならまだわかんだけどよ。全く見たこともねえ奴が突っ込んできやがって・・・あー、思い出したらイラついてきた」

ドン 「まあ落ち着け。情報源は得られた。それだけでも十分な成果だ。拠点の規模からみてもそう大きな失敗じゃない」

 

 上手から血濡れのハンカチで手を拭きながら登場するリエル。

 

リエル「そう、ドンの言う通り。捉えた一人からかなりの情報を得られたからこれを報告すればリンギットの始末書も一枚で済むでしょう」

リン 「一枚は書かなきゃなんねえのかよ」

リエル「それに主任も今回はおかしいと言っていたから、そう大きなお咎めもないと思うわ」

リン 「へーへーそうですか。ケッ、御子柴のジジイにあーだこーだ言われんだろ、メンドクセー」

セディ「あのー・・・リーダー、中は」

リエル「気絶してるわ。B1へ運んでおいて」

セディ「えっあ、ハイ・・・聞くんじゃなかった・・・」

 

 上手にはけるセディ。

 

ルピア「ほらリンギット、さっさと始末書書きなさいよ」

リン 「うるせー。大体何でお前らはなんもナシなんだよ。おかしいだろ。この会社には連帯責任って言葉がないのかね」

 

 ドアからズウォティ登場。

 

ズウォ「リンギット、今回は書かなくていい。悪かった」

リン 「あ、主任」

リエル「主任、やはり」

ズウォ「ああ。御子柴統括が裏で糸を引いていた。乱入してきた彼に関しては命令されたまま動いただけらしい。統括は手柄を横取りされると思ったのだろう」

ルピア「拠点を発見したのは軍だ~ってことですよね?ほんっとサイテー」

ズウォ「まあそういうことなる。だからリンギット、今回のことは気にしなくていい。よくやってくれた」

リン 「ああ~マジで主任が神に見える」

ドン 「よかったな、始末書書かずに済んで」

リン 「ほんとほんと。おっしゃ、これから飲み行くか」

リエル「残りの書類を片付けてから行きなさい」

ズウォ「まあ今日ぐらい、いいでしょう。どうせこれから君の報告を聞かねばならないし今日は動きようがない」

リエル「はあ、主任は甘すぎです」

ズウォ「たまには息抜きも必要という事さ。ほらリエル」

リエル「了解しました。リンギット、あまり羽目を外さないように」

ドン 「俺がついていく」

リエル「頼んだわよ」

 

 BGM(お洒落なの)、CI。ブルー暗転。場所、バー。

 ママと勇、リンギットとドンが板付き。明転。

 

リン「ったく信じらんねー。今回は主任があー言ってくれたからいいものの、あんなんありえねぇだろ。腐っても統括だぜ?ト・ウ・カ・ツ」

ドン「ああ、そうだな」

リン「おいおい随分淡白な返事じゃねえの~聞いてんのかよォ」

ドン「聞いてる。それより飲みすぎだ。少し水でも飲め」

 

 水を飲ませようとわちゃわちゃする二人。カウンター側から別(勇とママ)の声が聞こえてくる。

 

勇 「ほんっと信じらんねー。俺は統括に言われてやっただけだってのに、あの言われようだぜ?突然の罵倒、罵詈雑言の嵐!」

ママ「なんて言われたか知らないけどアンタも大変だねェ」

勇 「犬だのなんだのって初対面の人間にありゃねえよ!アイツぜってー彼女いないね!」

 

 カウンターから聞こえる大声に反応するとそこでようやく勇の存在に気付くリンギット。

 

リン「あ!テメェあの時の!」

勇 「あー!お前あの時の!」

ママ「あらン、二人とも奇遇ねェ」

リン「テメーあん時はよくも邪魔してくれたな」

勇 「そっちこそ人の任務にあーだこーだ文句言いやがって」

リン「あァ!?こちとらテメーより先に任務言い渡されて、綿密な準備してから行動してんだよ!それを横から割り込んで挙句滅茶苦茶にしといてよく言うぜクソ犬」

勇 「おい誰が犬だって!?」

ママ「二人とも仲良しねェ~。ほら、ここ座って一緒に飲みなさいよォ」

二人「断る!」

リン「つかどこをどう見たら仲良しに見えんだこのクソババア」

勇 「ほんとだぜママ!言ったろ、ロクでもねえ奴なんだって!」

リン「あァ・・・?」

ママ「ウフフ。いいわねェ、こういうのも」

ドン「落ち着けリンギット。店の迷惑になる」

ママ「あらヤダ大丈夫よォ。そんなことで怒るほど狭い心してないわ」

リン「上が上なら下も下だな。たかが知れてるってんだ」

勇 「はあ~そうきますか。なら言わせてもらうけどさ、あんぐらいのイレギュラーで一歩も動けなくなっちゃうオタクもどうなんですかねえ~?それであのリバースだってんならたかが知れてるっつーか、笑っちゃうよな」

リン「テメェ・・・わかった。今ここでぶちのめしてやる」

勇 「おーやんのかい。真っ向勝負で軍属兵士に敵うと思うなよ」

ママ「あらン、殴り合いなら店の外でシクヨロ。内装壊されたらたまったもんじゃないわ」

二人「うるせえ厚塗りババア!!」

 

 ぎゃんぎゃん喧嘩を続ける二人。

 

ドン「おい・・・」

 

 二人の首根っこを掴むママ。

 

ママ「オイ、誰が厚塗りだって?」

二人「ヒッ」

ドン「言わんこっちゃない・・・」

 

 BGM、FOしながら暗転。

 勇と梶浦が板付き。明転。

 

勇 「って~・・・」

梶浦「まだ痛むんですか」

勇 「あのゴリラ手加減なしで殴るから。しかもグーパンだぜ?」

梶浦「ママの前で厚塗りとか厚化粧はご法度だって先輩が言ったんじゃないですか」

勇 「そんなことも忘れちまうぐらいヒートアップしてたんだよ。くそう、全部アイツのせいだ」

梶浦「リバースの?」

勇 「そうだよ。感じ悪いったらありゃしねえ」

梶浦「まあ今回のことは誰が悪いかって言ったら統括ですし、相手に怒っても仕方ないと思いますよ」

勇 「仕方なくあるか!取り逃がしたの全部俺のせいにされたんだぞ!」

梶浦「考えてもみてください。重要な任務でイレギュラー、しかもその原因は同社の人間が引き起こしたもので・・・って。普通向こうは怒るモンですよ」

勇 「なんだよ、大知はあっちの味方すんのかよ」

梶浦「別にそういうわけじゃないですけど。これだって統括の独断じゃないですか。向こうも気の毒です」

勇 「まあ、そうっちゃそうだけど」

梶浦「下っ端は逆らえないですし。あゝ世知辛い世知辛い」

勇 「あーあ、虚しくなってくるなあ。理想と現実は遠く離れてさようなら~」

梶浦「珍しいですね。先輩が弱音なんて」

勇 「俺、これでもけっこー堪えてんのよ?上手くいかねえことばっか。もっとかっこいいもんだと思ってたのに」

梶浦「フフッ、治安維持部門」

勇 「そーそー。やってることは統括の小間使い。んでこの会社は逆らう奴は誰であろうと切り捨てるようなとこだし。治安維持ってのはわかるけどさ、やりすぎなんじゃないかーって思うこともあるし・・・って、なんてな」

梶浦「どうなんでしょう。財閥の治安を守るための犠牲が肝心の市民っていうところですよね。ま、統括からしたらどっちも有象無象なんでしょうけど」

勇 「守りたいもんも守れないんじゃ、どうしようもねえな」

梶浦「檻、ですね」

勇 「独房?」

梶浦「それじゃなんかやらかしたみたじゃないですか」

勇 「やらかしてないこともないんだけどな」

梶浦「まあ、市民からすればそうですけど」

勇 「飼い慣らされた犬って言われたことあるよ、俺」

梶浦「まんまじゃないですか」

勇 「自由がほしいなー」

梶浦「首輪首輪」

勇 「けっ、いつか噛み千切ってやるよ」

梶浦「殺処分だけは勘弁ですよ」

勇 「なんないさ、きっと」

梶浦「それが無難です、きっと」

勇 「無難は嫌いだけどな。よっしゃ、痛みも引いてきたし残り頑張るか!」

梶浦「押忍」

 

 下手にはける二人。夜の照明に変化。場所、バーの前。

 ドアからリンギット登場。バーに入ろうか迷っていると下手から勇が登場。

 

勇 「あ」

リン「げ」

勇 「げって」

リン「お前こそ『あ』って」

二人「・・・」

 

 間。

 

勇 「入るんじゃなかったのかよ」

リン「そっちこそ、ここに用あんじゃねえの」

勇 「まあ」

リン「じゃあ入れよ」

勇 「先にアンタがいたんだから譲るよ」

リン「・・・(ここで気を遣うか?という表情)」

勇 「ドウゾ?」

 

 睨み合う二人だったがその内にバーを見上げお互い黙り込んでしまう。

 

勇 「・・・どっか、店知らね?」

リン「・・・安っぽい居酒屋なら」

勇 「いいじゃん」

リン「いいのかよ」

勇 「おう。行こうぜ」

リン「(何か言いかける)・・・わかったよ」

 

 ドアへ向かう二人。

 

勇 「あ、名前。なんだっけ、あの・・・」

リン「一堂風斗」

勇 「あれ」

リン「ありゃあ仕事用の名前だ。オフに呼ぶな」

勇 「おー。あ、俺は成瀬勇」

リン「ふうん」

勇 「興味なさそうだなあ」

リン「別に」

 

 台詞言いながらドアへはける二人。照明変化。場所、居酒屋。

 店内には紗と店員三人がいる。リンギットと勇が登場。

 

A 「いらっしゃいませー。お二人様ですか?」

リン「ああ」

A 「お好きな席どうぞ~。お二人様ご案内でーす!」

BC「ありがとうございまーす!」

A 「お飲み物決まりましたらお呼びください」

リン「あ、俺生で」

勇 「じゃあ俺も生一つ」

A 「かしこまりましたァ。生二つ入りましたー!」

BC「ありがとうございまーす!」

勇 「随分賑やかだな」

リン「安っぽくていいだろ?」

勇 「うん。たまにゃいいな」

リン「なに、お前いっつもあのバーなの」

勇 「ああ。風斗も?」

リン「・・・お前、距離の詰め方エグいな」

勇 「そうかあ?つかそっちも、もうお前とかじゃなくてせっかく名前教えたんだからさ」

リン「気が向いたらな」

勇 「気が向いたらって・・・」

B 「お待たせしました~生二つでーす」

勇 「あ、ども」

B 「ごゆっくりどうぞー!」

勇 「んじゃま、乾杯しますか」

リン「おう」

勇 「その、さ。この前、悪かったな色々と」

リン「あー・・・おう。こっちこそ、頭に血が上ってたっつーか・・・悪かった」

 

 なんとも言えない間の後、思わず笑ってしまう二人。

 

勇 「フフッ、なんつーか、おっかしー」

リン「くっ、だな」

勇 「はは、乾杯」

リン「カンパイ」

 

 一気に飲む二人。

 

リン「大変だな、お互い」

勇 「だなあ、ほんと」

リン「っしゃ、今日は飲むぞ」

勇 「お、風斗強いのか」

リン「ママと飲み比べで負けたことねえぜ?」

勇 「うえ、マジか!ママかなり強いだろ」

リン「あれと勝負するときゃ店の在庫がたらふくねえと、もたねえぐらいだからな」

勇 「おっそろし・・・俺はそんな酒豪じゃないからお手柔らかに頼むぜ」

リン「なに、勝負じゃねえってんなら、潰したりしねえよ。ネーチャン、生おかわり。コイツの分も」

C 「生二つですね~かしこまりましたァ。生二つ入りまーす!」

AB「ありがとうございまーす!」

勇 「ちょ、勝手に頼むなよ」

リン「いいじゃねーの。まさかそんな強くないっつったって一杯で終わるワケねえだろ?」

勇 「いやそうだけど。ペースってもんがあんだろ」

 

 生のおかわりを持ってきた店員Cに紗がぶつかってしまう。その衝撃で座っていた勇にぶつかってしまう店員C。

 

紗 「わ、ごめんなさい!」

C 「わっ、大丈夫ですか」

勇 「っと」

リン「お?」

C 「うわすいません!」

勇 「大丈夫大丈夫。それよりお姉さん大丈夫?」

紗 「ごめんなさい、ちょっとフラッときちゃって」

勇 「メチャクチャ顔色悪いけど、飲みすぎた?」

紗 「ちょっと、はい・・・うっ」

勇 「うわうわ、ここで吐くなよ!連れてくから!トイレどっち?」

リン「あっちだ(上手側さして)」

勇 「サンキュ(紗を支えて上手側へ歩く)」

リン「おいおい手出すなよ~」

勇 「バカ!んなことしねーよ!」

 

 上手へはける紗と勇。

 

C 「お飲み物こぼれたりしてないですか?」

リン「大丈夫。それウチのだよな、もらっとくわ」

C 「ありがとうございます」

 

 ビールを飲んでいると戻ってくる勇。

 

リン「大丈夫なのかよ」

勇 「多分。吐いてるとこ見られたくないって言うから戻ってきた」

リン「そういう気遣いはできんだな。意外」

勇 「意外ってなんだよ」

リン「そのまんまの意味だよ。お前ガサツそうだし」

勇 「は~~?じゃあ今度ナンパ対決しようぜ?俺、結構自信あるから」

リン「なんだよナンパ対決って。ま、やる前から結果は見えてるけどな」

勇 「俺の完全勝利のな」

リン「自惚れてろよ」

 

 戻ってくる紗。

 

勇 「お、大丈夫か?」

紗 「ごめんなさい。ご迷惑おかけしました」

勇 「いいっていいって。あ、水飲む?」

リン「おねーさん、水持ってきてもらえる?」

C 「かしこまりました」

勇 「サンキュー」

リン「やっぱお前とはそこら辺が違うのよ」

勇 「一言多いっての」

紗 「ごめんなさい。せっかく楽しんでるのに」

リン「あー気にすんなって。ほら水くるから(ここ座れよジェスチャー)」

紗 「え、そんな」

勇 「誰か待ってんならいいけどさ、そういう感じでもなさそうだし」

紗 「・・・じゃあ、ちょっとだけ失礼します」

リン「おうおう」

勇 「お姉さん、名前なんてーの?」

紗 「詠村紗(えむらさや)です」

勇 「紗ちゃんか~」

リン「まるでナンパだな」

勇 「だからうっせーっての!」

リン「俺は一堂風斗」

勇 「無視かよ!あ、俺は成瀬勇。よろしくな」

紗 「よろしくお願いします。ふふ」

勇 「つか敬語ナシで!なんか緊張するじゃん」

紗 「そう、ですか?」

リン「アンタ俺らとそう変わんないでしょ、歳。いいって」

勇 「寧ろ年上って感じするよな」

紗 「それ老けてるってことですか?」

勇 「えっ、いやそんな」

リン「あーあー、女性に向かってそりゃねえよなあ」

勇 「あっあ、ごめん!」

紗 「ふふ、冗談です。敬語は、その内自然に取れたら」

勇 「わ、わかった」

C 「お水お持ちしましたー」

紗 「ありがとうございます。あ、ちゃん付けはナシで。そんな歳でもないですから」

勇 「そっか、わかった」

リン「こんな居酒屋に一人でなんて変わってんな」

紗 「そう、ですかね?今日はたまたま・・・ちょっと飲みたいなって」

リン「ちょっとって量じゃねえけどな」

紗 「あはは・・・それはごもっともです」

勇 「酒好きなの?」

紗 「そうでもないです。なんていうか、ただのヤケ酒みたいな」

リン「男にフラれたとか」

勇 「おい風斗」

紗 「(首を横に振る)・・・友達が、死んじゃって」

二人「・・・」

紗 「ごめんなさい。でも、よかった」

勇 「・・・?」

紗 「二人のおかげで少し元気になりました」

勇 「俺らなんもしてないけど」

紗 「二人を見てたら、なんかおかしくなっちゃって。仲良いんですね」

二人「全く」

紗 「ふふ、そういうところです」

リン「カ~~やめろやめろ」

勇 「そうだよ。俺らだって今日初めて名前知ったぐらいなんだからさ」

紗 「え、そうなんですか」

リン「そうそう。この前いつも行ってるバーでコイツと大ゲンカしちまって」

勇 「そんでママに追い出されちゃってなー」

リン「なーんか行くの気まずくて。んでこっち来たってワケ」

勇 「俺は着いてきただけだからここ初めてなんだよ」

紗 「へえ、益々面白い」

リン「今のどこに面白要素があったんだよ」

紗 「というか、そのママさん相当怖い人なんですね」

勇 「普段は良い人なんだけどなー」

リン「厚化粧って言うと見境なくブチギレるんだよ」

紗 「それはなんというか、怒って当然というか」

勇 「いやでもいっぺん見てみたらわかるって。めっちゃ面白いから」

リン「そうそう」

勇 「そうだ今度行こうぜ。あ、女子でも容赦ないから絶対言うなよ」

紗 「言いませんよ、そんな失礼なこと」

 

 談笑の中暗転していく。

 場所、会議室。御子柴とズウォティ板付き。明転。

 

御子柴「以上が次の侵攻作戦の概要だ。どうかね」

ズウォ「問題はないかと。こちらの報告が役立っているようで何よりです」

御子柴「本来なら総務統括の谷川君にする話だがね、どうも彼は頭が固い。柔軟な判断であれば山本君の方が優れている」

ズウォ「それは買い被りです。ただ、こちらから谷川統括には話を通させていただきます。不要なトラブルはこちらも避けたいので」

御子柴「ああ、それは任せよう。私から言われるより君から言われる方が角も立たずに済む」

ズウォ「ただ一つ、こちらからも条件が」

御子柴「ほう、何かね」

ズウォ「次の作戦にはこちらと軍を繋ぐ連絡係を用意していただきたい」

御子柴「この前のことを根に持っているのかね」

ズウォ「そういうわけでは。ただ共同侵攻作戦ともなれば規模が違います。指示系統の混乱だけは避けたいのです」

御子柴「ふん、まあいいだろう。用意しておく」

ズウォ「よろしくお願いします」

御子柴「ではこれで失礼するよ。次の予定もあるのでね」

ズウォ「はい。では」

御子柴「ああそうだ。精々我が軍の足手纏いにならないよう指導ぐらいしておいてくれよ?山本主任」

 

 ドア側へはける御子柴。小さく溜息をつくズウォティ。

 

リエル「失礼します」

 

 ドアからリエル登場。

 

ズウォ「リエルか。どうした」

リエル「少々お話がありまして。それより今のは・・・」

ズウォ「次の侵攻作戦についての話だ。軍と共同戦線を張ることになった」

リエル「やはり」

ズウォ「ああ、B1の情報通りだ。日村を捕まえれば主要メンバー全員の身元が判明するやもしれん」

リエル「一石二鳥ってやつですね」

ズウォ「ただわかっているとは思うがかなりの拠点規模でな。軍も人手不足が否めない」

リエル「そこで共同戦線と。随分と虫のいい話ですね」

ズウォ「仕方のない事さ。こちらとしても反乱因子の鎮圧は最優先事項、手を組まない理由が無い」

リエル「確かにそうですが、」

ズウォ「話があったんじゃ?」

リエル「え、ああ、そうでした」

ズウォ「ここではなんだからデスクへ行こう」

リエル「そうですね」

 

 ドアへはける二人。

 照明変化。場所、総務部門受付。舞台中央に受付嬢が座る。下手から勇登場。

 

勇 「なあお姉さん」

受付「はい。如何いたしましたか」

勇 「総務の受付ってここで合ってる?」

受付「そうですが。どのようなご用件でしょうか?」

勇 「えっと、特殊事業課の一堂っている?」

受付「特課の一堂ですね。少々お待ちください」

 

 連絡を取る受付嬢。

 

勇「ははーん。こんなかわいこちゃん抱えちゃって総務も中々やるねえ」

 

 ドアからリンギット登場。

 

リン「ウチのカオリちゃんに手ェ出してんなよスケコマシ」

勇 「おい失礼だな。まだ出してないっつーの」

受付「あれ、一堂さん。近くにいたんですね」

リン「おーよ。そだ、今度飯行こうぜ?奢るからさ」

受付「ふふ、結構です。そんなことばっかり言ってるとお二人ともセクハラで訴えちゃいますよ?」

リン「お、わーわーわー。勘弁勘弁」

勇 「何で俺まで巻き込まれてんの!?あ、カオリちゃん連絡先交換しない?」

リン「ちゃっかり名前呼んでんじゃねえ。おら、テメーは俺に用があってきたんだろ。行くぞ」

勇 「あー離せー。俺はカオリちゃんの連絡先をだな・・・」

リン「御子柴統括にチクんぞ」

勇 「それだけは勘弁」

 

 ドアにはける二人。

 場所、総務デスク。それぞれの袖から総務メンバーが出てくる。ドアからリンギットと勇が登場。

 

リン 「ようこそリバースデスクへ」

勇  「ほえーここが」

リエル「主任から話は聞いてるわ。よく請け負ってくれた、感謝する」

勇  「あーいえ、俺もこの方がいいと思うし。それにこっち側なんて滅多に見られるもんじゃないですから。ある意味いい経験というか」

リエル「色々と守秘義務があるため勝手は許せないが、まあ茶ぐらいは飲んでいってくれ」

セディ「はい失礼しまあす。お茶、熱いから気をつけてください」

勇  「ども」

リエル「私はリエル。主任が不在の際は私が彼らをまとめている。基本的には私を介してのやり取りが多くなると思うから、よろしく」

勇  「よろしくお願いします。成瀬勇です」

ルピア「あー噂の」

勇  「えっなに、俺そんな話題になってたの」

ルピア「成瀬勇、二十五歳。十文字電機動力株式会社に務めて三年。入社からずっと治安維持部門所属で軍属も同様に三年、っと。ちなみにさっき貴方が声かけたカオリちゃんは都市開発部門の山野辺と付き合ってるから諦めなさい」

リン 「はあ!?山野辺ェ!?」

ドン 「知らなかったのか。つい最近だぞ」

リン 「知らねえよ!つかマジか~。クソ、アイツ消してやる・・・」

ルピア「くだらないこと言ってんじゃないわよ。大体フリーだったとしてもアンタに脈があるわけないでしょ。ま、そういうことだからよろしく、成瀬クン」

勇  「どういうことだか全然わかんないし・・・特課ってみんなこうなのか」

セディ「特課の中でもここにいる僕達とあと主任、この六人がリバースと呼ばれています。総務の中の特課、更にその中でより優れた人間だけがリバースとして選ばれるんです。だから特課といっても一括りではなく、業務も形態も異なるんです」

リン 「何でお前がそんな自慢気に説明してんだよ。この前までやめたいやめたいってぐずってたくせによ」

勇  「へえ~そうなのか。存在はなんとなく知ってたけど本当に実在してたんだな」

ドン 「それぐらい曖昧な方がこちらとしても動きやすいからな。狙い通りとも言える」

リエル「故にだが、そういった兼ね合いも考慮して秘匿している部分が多数ある。くれぐれも口外しないよう頼む。もちろん、必要なこと以外は御子柴統括であっても、だ」

勇  「そこらへん肝に命じときます。まだ死にたくないし」

リン 「間抜けにしては賢明な判断だな」

勇  「間抜けだあ!?」

ルピア「うるさいわね、バカが二人に増えたみたい」

勇  「オネーサン結構言うのね・・・」

ルピア「お姉さんじゃなくてルピア。外で会った時はカレンって呼んでね」

勇  「名前二つずつ覚えなきゃなんないのかあ」

リエル「すまないね。私達は基本リバースの仕事ではコードネームを、それ以外では偽名を使っているから、面倒だとは思うが覚えてほしい。ちなみに私は鳥羽日紗子(とばひさこ)と名乗っているから、呼び出すときはそちらで頼むよ」

勇  「了解しました」

リエル「大分寄り道をしてしまったね。本題に入ろう。御子柴統括はなんと?」

勇  「挨拶だけです。よろしくと一言だけ」

リエル「そうか」

リン 「愛想のねえジジイだこと」

ドン 「リンギット」

勇  「まあ実際そうですから。俺らも統括が愛想イイなんて微塵も思っちゃいないですし」

セディ「軍も一筋縄ではいかないんですね」

勇  「ウチの場合、統括も総指揮も御子柴さんだから」

ルピア「あはは~ご愁傷様」

リエル「一本化にはメリットもデメリットもある。治安維持部門の場合はデメリットが大きく出てしまっているな」

勇  「はは、その通りです。ま、対立する意見が無い分、一つの命令に従えばいいんでその点は楽ですけど。まあ、言ってることがああなんで」

リエル「苦労が絶えないな。だが仕事はこなしてもらうぞ。こちらからの伝言を預かってくれ」

勇  「もちろんです。そのための俺ですから」

 

 話し込む勇とリエル。退屈そうに眺めるリンギット。

 

リン 「これでちったあマシになりゃいいけど」

ドン 「主任からの提案だ。これが最善策なんだろう」

リン 「もっとマシな奴いなかったのかよ。人選ミスだろ」

ルピア「随分親し気じゃん」

リン 「そんなんじゃねーよ。最早腐れ縁だ」

セディ「成瀬さんってこの前先輩がトラブったっていう」

リン 「だから丁度いいって思ったんだろ。あのクソジジイの考えそうなことだ」

セディ「でもほんと、息合いそうじゃないですか」

リン 「はあ?」

 

 睨まれて怯んだセディは上手にはける。

 

ルピア「ちょっと、後輩いびってないでさっさと仕事したらぁ?」

リン 「元はと言えばお前がなあ・・・」

 

 話を聞く様子もなく上手へはけるルピア。

 

リン「ったく・・・あーあ、めんどくせー」

ドン「帰還後に書類が山積みでも嫌だろ」

リン「そりゃそーだけど。つか長くなりそうだよな今度の」

ドン「そうだな。場所が近江だろ?それに加えてあの拠点規模だ。中長期化は免れないだろう」

リン「これで雑魚までうじゃうじゃ湧かれたらたまったもんじゃねえな」

ドン「まあ、ここで日村を捕えれば事態も大きく進展するだろう。少しの辛抱だ」

リン「は~~、やんなってきたぜ」

 

 話し終えた勇とリエル。

 

勇  「了解しました。統括に伝えておきます。それじゃ俺はこれで」

リエル「ああ。よろしく頼んだ」

 

 下手へはけるリエル。上手へはけようとする勇をひっ捕まえるリンギット。

 

リン「おい、これから飲みいくぞ」

勇 「はあ?なんで」

リン「侵攻作戦が始まりゃあ、次いつ飲めるかわかんねえし。それにこの前、詠村をバーに連れてくって言っただろ?」

勇 「あー、そうだったな」

リン「丁度いいだろ、行こうぜ」

勇 「いいけどちょい待ち。統括に報告してくる」

リン「へいよ。んじゃ先行ってるわ」

勇 「おう」

 

 一緒に上手にはける二人。(ドンはいつの間にか下手にはけている)

 BGM(洒落たやつ)、CI。照明変化。場所、バー。

 ママが先に出てきて、その後にリンギットと紗が登場。

 

ママ「あらいらっしゃい。ってなになにィ~!ちょっと可愛い子連れてきちゃってガールフレンドかしらン?」

紗 「えっ、あ、その!」

リン「バカ。そんなんじゃねーよ。つか怖がらせんな客減るぞ」

ママ「まあヒドイ!ワタシのどこが怖いのかしらン。というかこんな可愛い子連れてくるなら先に言いなさいよォ~!」

リン「痛ぇ!イテェから!」

ママ「あ、アナタ、お名前はなんていうのかしらン?」

紗 「詠村紗っていいます」

ママ「サヤちゃんね。お酒は強い方?」

紗 「あーいえ。人並みぐらいです」

ママ「そう。じゃあ甘いの一杯サービスしておくわねン」

紗 「わ、ありがとうございます」

リン「あんま強くねえの一杯」

ママ「はいよォ」

 

 酒を用意しに行くママ。

 

リン「どうよ」

紗 「想像以上、でした」

リン「だろ」

紗 「はは、でも楽しい」

リン「そりゃよかった」

紗 「まさかこんな早く連れてってもらえるなんて思ってませんでした」

リン「次いつ飲めるかわかんなくてな」

紗 「そう、なんですね」

 

 酒を持ってくるママ。

 

ママ「あらあらァ?次の逢瀬の約束かしらン」

リン「ちげーっての。なんならその逆だってな」

ママ「え!別れ話~!?ダメよダメよ、そんな可愛い子もう二度と出会えないわよォ~~!!」

紗 「誤解されちゃってますけど・・・」

リン「ほっとけほっとけ」

 

 上手から勇登場。

 

勇 「お、盛り上がってるな」

リン「ママが勝手にな」

紗 「お疲れ様です」

勇 「ありがとう」

ママ「勇ちゃんちょっと聞いてよォ~!今ふうちゃんと紗ちゃんが別れ話しててね」

勇 「あええ!?お前ら付き合ってたのか!?」

リン「誤解だ」

紗 「誤解です!」(二人同時に)

ママ「あ、勇ちゃん何飲む?」

勇 「強いの一杯!」

ママ「んもう、いつになったら名前覚えるのかしらこの子達は」

 

 はけるママ。

 

勇 「で?なんの話してたんだよ」

リン「別れ話」

勇 「あんれ、自分でノっちゃう?」

リン「そういうもんだろ、次の任務」

勇 「あ~」

紗 「任務?」

勇 「俺ら軍属でさ。次、長くなりそうなんだよ」

紗 「軍属、」

リン「正確には部署が違うが。まあ、そういうことでいい」

 

 戻ってくるママ。

 

ママ「はあい、お待たせしました」

勇 「ありがと」

リン「んじゃま、乾杯しますか」

勇 「おう」

三人「乾杯」

 

 各々酒を飲む。

 

紗 「しばらくは飲めませんね」

リン「んな一ヶ月とか、かかりゃしねえよ」

勇 「そうそう。任務なんてぱぱーっと片付けてくるって!」

ママ「あら、頼もしいわねン」

勇 「俺だって三年目の意地ってもんがあるわけよ」

ママ「それじゃあ景気づけにこの一杯は奢りにしてあげる」

リン「随分気前いいじゃん」

ママ「アナタ達にはその内、出世払いしてもらうから。それまでの貸しよ」

勇 「俺がバシバシ報道される日もそう遠くないから待ってろって!」

リン「面白い冗談だな、それ」

勇 「メディアはもちろん、市民からは黄色い声援、可愛い女の子にはモテまくり、軍の中ではヒーローとして尊敬され~ってな!」

リン「夢見すぎだ」

勇 「夢は夢らしく、おっきい方が希望あるだろ?」

紗 「その考え方いいですね」

勇 「だろ?俺いつかぜってーなってみせるから!」

紗 「なんだか、成瀬さんならきっとって、思えちゃうなあ(柔らかく笑う)」

リン「お前、酔っぱらってる?」

紗 「え?あはは、そうかも」

勇 「なんか、その方がいいよ。敬語もちょっぴり抜けてるし」

紗 「あれ。わ、はは、ごめんなさい」

リン「謝るこたねえだろ。俺もその方がいいと思うし」

紗 「・・・そう、かな」

勇 「そうそう!絶対その方が可愛いから!」

紗 「かっ・・・!?」

リン「お前口説いてんの?」

勇 「はあ!?ちっげーし!純粋にそう思っただけだし!」

 

 立ち上がり喧嘩を始める二人。勇が社員証を落とし、それに気づいた紗が拾う。

 

ママ「んもう、せっかくの一杯だっていうのに。ねえ、紗ちゃん?」

 

 紗、社員証を見つめたまま固まっている。

 

ママ「紗ちゃん?」

紗 「あっ、ああいえ。なんでもないです。成瀬さん落としましたよ・・ダメだ、聞こえてない」

ママ「ごめんなさいねえ、ってアタシが謝ってもどうしようもないんだけど」

紗 「二人ってなんだか、喧嘩ばっかりなのにどこか息が合ってるというか」

ママ「そうねェ。案外バランスがイイのかも」

紗 「ぶつかっているようで、そうでもないってところが」

ママ「それを言ったらアナタもよン」

紗 「え?」

ママ「あの二人の空気になぜか馴染めちゃう。そういうのが得意なのかしら?」

紗 「そんなことないですよ。私はまだ知り合ったばっかりですし」

ママ「あの二人だってそうよォ?この前なんか一触即発・大爆発!って感じだったんだから、ウフフ」

紗 「ふふ。なんとなく、わかるかも」

ママ「でしょォ?だから日が浅いとか、そういうのじゃないのよ」

紗 「多分、あの二人だから・・・かな」

ママ「フフン、それはいいことねン」

 

 喧嘩を続ける二人の間に割って入るママ。

 喧騒の中、社員証を見つめる紗。

 

紗「・・・寂しくなるかもなあ」

 

 BGMが大きくなっていくのに合わせてブルー暗転。

 場所、近江アジト。SE銃声などの交戦音。上手から勇とセディ登場で明転。

 

セディ「やっぱりおかしい」

勇  「どうした」

セディ「妙に迎え撃たれてるっていうか・・・」

勇  「そりゃそうだろ。向こうだって本気なんだ」

セディ「いえ、そういうことじゃないんです。まるでこの襲撃を予測していたかのような動きなんですよ。他のメンバーも言ってるんですけど武器の揃い方も異常なんです」

勇  「それはこの拠点規模から考えたらおかしなことでもないだろ」

セディ「それはそうなんですが・・・各地のデモに参加している人数、頻度から考えてこの人数はやはり妙ですよ」

勇  「・・・向こうさんの足も止まってるみたいだし、ちと連絡とってみるわ」

 

 御子柴に連絡を取る勇。

 

勇  「こちら成瀬。御子柴指揮官、応答願います」

御子柴『どうした』

勇  「リバースから敵の動きが妙だと報告が。まるでこちらの襲撃を予期していたような動きなんです。確証はないですが無視することもできず、」

御子柴『確証がないのなら放っておけ。奴らの勘なぞに振り回されては堪ったものではない』

勇  「ですが被害は想定よりも僅かに多い状況です。一時撤退を考えるのも視野に入れた方が・・・」

御子柴『喧しい!貴様はなんだ上官である私に楯突き、己が身と無能な有象無象を助けたいとでも言うのか?偽善や綺麗事なら余所でやりたまえ。我が社の未来とたかが数十人の命など比べるまでもない』

勇  「っ、アンタ」

 

 勇の肩を掴み制止するセディ。

 

勇「・・・了解。任務、続行します」

 

 通信終了。

 

勇  「んだよ」

セディ「なんて言われました?くだらないとかそんなことですか?まあ、御子柴統括の言いそうなことなんて手に取るようにわかりますけどね」

勇  「冷静だな」

セディ「ムカついてますよ?でも任務ですから。それに冷静に考えればまだこっちに分があります。地の利で後れを取ったとしても対人戦闘において圧倒的に有利ですから。不意打ちさえ注意していれば、これ以上の被害拡大は防げます」

勇  「・・・お前もちゃんとリバースなんだな」

セディ「あれ、もしかして僕のことなんかの間違いで入っちゃったうっかりだと思ってます?いやまあ確かに間違っちゃったな~とは思ってますけど実力的には・・・」

勇  「セディ、向こう」

セディ「えっ、あ、ハイ」

 

 下手にはける二人。下手からリンギットとドン登場。

 

リン 「やっぱりか」

ドン 「スムーズすぎる」

リン 「だな。セディの奴ですらああ言うならそうなんだろ」

ドン 「それでいて肝心の日村が見つからない。隠れているのか」

リン 「おいルピア、そっちどうだ」

ルピア『ぜんぜん。本当にいるの?』

リエル『この統率感からして指示している人間がいるのは間違いない。そしてそれができるような人間はおそらく日村だけだろう』

リン 「ざっと共有した感じ指揮取ってる人間は見当たらなかったしな」

ルピア『じゃあやっぱり隠れてるってこと?』

リエル『・・・あまり考えたくはないが、一つの仮説として今回の作戦が敵方に漏洩している可能性もなくはない』

ドン 「そうだとすれば最悪の事態も考えられる」

リエル『とにかく今はくまなく探すしかない。幸い入手していたマップに間違いはない。なんとしても探し出すんだ』

三人 「了解」

リン 「にしてもいい迷惑だぜ」

ドン 「?」

リン 「御子柴だよ。この状況でなんの指示もなしだぜ?」

ドン 「ここで逃したくないんだろう」

リン 「俺達がどうにかするとでも思ってんのか、それとも自分の軍を過信してるのか。どっちにしろ現場の人間からしたら迷惑極まりねえ話だぜ」

 

 ドアへはける二人。上手からルピア登場。

 

ルピア「こちらルピア、日村らしき人物が走っていった!このままポイントA385に誘導するから近い人お願い」

セディ『僕ら近いんで行きます!』

ルピア「任せたわよ」

リエル『念のためリンギットとドンはA388へ。そして各々向かいながら聞いてほしいんだが、主任からリバースのみに命令が下った。成瀬にも伝えるな。内容は』

 

 SE銃声音。撃ち合いながらルピアは下手へはける。

 上手から日村登場。

 

日村「はぁ、はぁ・・・ちくしょう」

 

 下手から勇とセディ登場。

 

勇 「行き止まりだぜ、日村」

日村「チッ・・・!」

 

 日村が二人に向けて発砲。SE銃声音。

 

セディ「やっぱ素人だね。闇雲に撃ったって当たりゃしないよ」

 

 セディ、日村の手を狙い発砲。SE銃声音。拳銃を落とす日村。

 殺陣。

 

勇「さ、諦めて投降しろ。今ならまだ・・・」

 

 ポケットから爆弾のスイッチを取り出す日村。

 

日村「ただやられて堪るか・・・お前らも全員道連れだ!」

勇 「っ、おい!」

 

 SE銃声音。ドアからリンギットが登場。倒れる日村。

 

リン「くだらねえこと考えやがって」

勇 「リンギット・・・!」

 

 セディが日村の死体に近づき脈を確認。

 

セディ「ターゲットの沈黙を確認」

勇  「どう、なって・・・捕縛じゃなかったのかよ」

リン 「命令だ」

勇  「そんな命令聞いてねえよ!」

リン 「言ってねえからな」

勇  「そういうことじゃ・・・!」

セディ「これが僕達のやり方です。どうせ手柄は軍のものになる。それなら御子柴統括も文句は言わないでしょう」

勇  「そういうことじゃねえだろ!今、コイツ・・・日村を殺す必要があったのかって!」

リン 「知るかよ。俺らはただ任務を遂行しただけだ。んなことより御子柴のジジイに連絡しろ。指示を仰げ」

勇  「そんなことだ・・・!?」

セディ「先輩、口が悪すぎる。成瀬さんすいません。でもこれがリバースだから」

勇  「・・・」

 

 少し離れたところから御子柴に連絡をとる勇。ドアからドンが登場。

 

ドン 「リンギット、セディ」

セディ「あ、先輩」

リン 「終わったぞ」

ドン 「ルピアは先に向かっている」

セディ「わあ・・・ほんとにやるんですか。日村はやったんだし、そんな殲滅なんてしなくても、」

リン 「んじゃ、お前主任にそう言えよ」

セディ「言えませんよ!というかわかってますよ。ただの愚痴です。はあ~やだやだ」

ドン 「どうする」

リン 「向こうの指示待ちだ。今回表向きには軍属ってことになってるしな」

勇  「総員撤退だ」

リン 「ふうん、了解」

セディ「了解」

ドン    「了解」

 

 リンギット、ドン、セディは上手へ向かう。小さくSE雨音を流す。

 その場を動こうとしない勇。

 

勇「やっぱり、」

 

 ドンとセディは足を止めて振り向く。リンギットはその場に立ち止まるだけ。

 

勇「おかしいだろ、こんなの。いや、だからリバースだってのはわかる、けどわかっちゃダメな気がする・・・それを認めたら、人って、生きていけないだろ」

 

 足早に上手へはけるリンギット。その後ドンとセディも上手にはける。

 雨音が大きくなるのに合わせて暗転。

 場所、どこかの外。紗と反乱軍A板付き。紗は後ろを向いてフードを被っている。明転。

 

紗「・・・みんな、帰ってくるかな」

A「・・・どうだろうな」

紗「日村はね、いつも電話に出ないの。だから、」

A「紗」

紗「・・・わかってる。わかってるよ」

A「あの時に止めればよかった」

 

 間。

 

紗「もう止まらない、止められないよ。ここまできて、たくさん失って。もう何も無駄にできないんだよ・・・もしここでやめたら全部なかったことになる。それだけはやっちゃいけない」

A「・・・」

紗「誰だってわかってる。十文字に反抗したって力でねじ伏せられて、はいおしまい。でも、でもね、誰かがやらないと、私達がやらないともうダメになっちゃう。大切な人が、みんなが、」

A「ついていく、みんな」

紗「・・・うん」

A「紗と同じ想いだから集まったんだ。大丈夫だよ」

紗「・・・うん」

 

 振り返る紗。

 

紗「そうだね」

A「ああ」

紗「帰ろう。明日は絶対に来るから。今日よりずっといい明日が」

 

 SE雨音が大きくなるのに合わせて暗転。

 場所、総務デスク。シャワーを止める音が聞こえたら明転。

 タオルで髪を拭きながらリンギットが上手から登場。血塗れのYシャツとスーツ一式が散らばっている。

 血塗れのYシャツを見つめて勇の言葉を思い出す。

 

リン「認めたって、生きていかなきゃなんねんだよ」

 

 タオルを投げつける。

 

リン「・・・はあ、腹は減りやがる」

 

 ドア側から勇の声。

 

勇「誰かいるか?」

 

 勇、ドアから登場。

 

勇 「・・・ツイてねえ」

リン「・・・何か御用で」

勇 「これ、渡してくれってリエルが」

 

 封筒を手渡す勇。読むリンギット。

 

勇 「あと書類受け取りに」

リン「ふうん」

勇 「・・・(いたたまれない無言)」

リン「・・・(書類に目を通している)」

勇 「セディは?」

リン「もうくんだろ」

勇 「そっか」

 

 再び沈黙。

 

リン「お前、居酒屋の店員覚えてるか」

勇 「は?急になんだよ」

リン「いたんだよ、近江に」

勇 「・・・ん、(言葉にならない)」

リン「まあ、このご時世なくはねえ話だ」

勇 「・・・そう、か」

 

 上手から書類の束を抱えたセディ登場。

 

セディ「は~~やっとデスクだあ~~」

勇  「セディ」

セディ「あ、成瀬さん!すいません遅くなっちゃって」

勇  「あーいや、大丈夫。そんな待ってないし」

セディ「そうですか?って先輩また散らかして~!ルピアさんに怒られますよ」

リン 「うるせー。ったく久々に浴びたんだから少しぐらい大目に見ろっての・・・」

 

 ぶつくさ言いながら片付けるリンギット。血塗れのYシャツを見てぎょっとする勇。

 

勇  「怪我したのか」

セディ「?」

勇  「リンギット、シャツ」

リン 「・・・チッ」

セディ「あー、あれ違い・・・」

リン 「セディ、渡すもんあんだろ」

セディ「あ、そうだった!ちょっと待っててくださいね成瀬さん」

 

 書類の束から成瀬に渡す紙を探すセディ。

 

勇  「はぐらかすなよ」

リン 「いくら軍属じゃねえっつったって仮にもリバースだぞ」

勇  「身近な人間が怪我してたら心配するに決まってんだろ」

リン 「・・・勘違い野郎」

勇  「はあ!?」

リン 「ほんとバカらしい」

勇  「どういう意味だよ!」

セディ「あ!見つけました!これですこれこれ」

 

 二人の間にずかずかと入り込むセディ。それをいいことに下手へ一旦はけるリンギット。

 

セディ「こちらを御子柴統括にお願いします」

勇  「あ、ああ」

セディ「明日にはまた任務ですよね。頑張ってください」

勇  「明日はいないのか?」

セディ「はい。僕らは今回の後始末で手一杯なので。成瀬さんにとっては幸い、ですかね」

勇  「いや別にそういう意味じゃないんだ。悪い」

セディ「・・・(じっと勇を見つめる)」

勇  「・・・?」

セディ「僕達のことあんな風に心配する人、初めて見ました」

勇  「へ?」

セディ「僕らってほら、汚い仕事ばっか引き受けるので心配なんてされないんですよ。血を見るのなんて日課みたいなもんですし」

勇  「・・・それは、」

セディ「でもそれって普通じゃないんですね」

 

 何かを食べながらリンギット戻ってくる。

 

リン 「いつまでだべってんだよ。統括にどやされんぞ」

セディ「わ、僕もさっさと片付けないと」

リン 「つーことだ。用が済んだんならさっさと帰れ」

勇  「なんかはぐらかされた気がする。まあいいや、休める時に休めよ」

リン 「言われなくても。寧ろこれからだったんださっさと休ませろ」

勇  「はいはいわかったよ、じゃあな!」

 

 ドアにはける勇。

 

リン 「はあ」

セディ「・・・(にこにこしながら書類を片付けている)」

リン 「・・・(むしゃむしゃ)」

セディ「・・・」

リン 「おい」

セディ「何ですか?」

リン 「言いたいことがあるなら言え」

セディ「別にないですよ」

リン 「お前随分生意気になったな」

セディ「それじゃあ聞きますけど。どうして怪我のこと言わなかったんですか?」

リン 「これ全部返り血だってか?んなこと言ってみろ、面倒が増えるだけだ」

セディ「まあそうですけど」

リン 「だろ?」

セディ「でも僕らにはないじゃないですか、そういうの」

リン 「羨ましいってか」

セディ「今更ですよ。血なんてこびりついたら中々取れないんですから」

リン 「そうだな」

 

 黙々と書類を片付けるセディと食べながら書類を眺めるリンギット。

 ある程度整理したセディが上手にはける。

 

リン「ま、アイツみたいな奴も必要なんだろうな」

 

 下手へはけるリンギット。

 照明変化。場所、居酒屋。せわしなく働く店員達。

 下手から紗が登場したらドアから勇登場。

 

勇「あ、紗」

紗「あぁ、成瀬さん」

勇「来てたんだな(話ながら椅子に座る)あ、お姉さん生一つ」

B「かしこまりました。生一ついただきましたぁ!」

A「ありがとうございます!」

紗「成瀬さんこそ任務終わったんですね」

勇「ん、まあ、うん」

紗「・・・元気、ないですか?」

勇「ん~・・・ない、かな」

 

 紗、酒を一気飲み。

 

勇「元気、ない?」

紗「ない、です」

勇「お互い様だな」

紗「ですね」

B「お待たせしました。生一つです」

勇「どうも」

紗「あ、おかわりを」

B「かしこまりましたあ!」

 

 勇、貰った酒を一気飲み。

 

勇 「次の任務が決まってさ。またちょっと長くなりそうなんだ」

紗 「そうなんですね」

勇 「あんま行きたくねえ」

紗 「嫌な、こと?」

勇 「やりたくねえこと」

紗 「・・・」

勇 「紗は?」

紗 「私は、」

A 「お待たせしました~」

紗 「あ、どうも」

二人「・・・」

勇 「紗?」

紗 「私、実は・・・成瀬さんに返さなきゃいけないものがあって」

勇 「?」

紗 「これ(社員証を出す)」

勇 「あえ!それ探してたんだよ!てかなんで紗が?」

紗 「この前バーで飲んだ時、一堂さんと喧嘩してたじゃないですか。あの時に。呼んだんですけど、喧嘩に夢中だったから」

勇 「あ、あの時か。はは、わり。ありがとう」

紗 「いいえ」

勇 「え、つかこれで?」

紗 「あぁ・・・ずっと返さなきゃなーって・・・あはは」

勇 「んなこと気にしなくていいのに!つか寧ろ感謝だし」

紗 「そう・・・ですか」

勇 「・・・やっぱ元気ねーな」

 

 紗、再び一気飲み。

 

紗「成瀬さんは、今日よりいい明日が来るって信じてますか」

勇「今日より、いい明日・・・」

紗「今日より、いい明日が、今より、いい未来が・・・ほしいなあ」

 

 勇、残った酒を一気に飲み干す。

 

勇「わからん!」

 

 立ち上がる勇。

 

勇「わかんねえ!けど」

 

 紗の方を向く。

 

勇「それいいじゃんって思ってるよ」

紗「成瀬さん、」

勇「って、俺恥ずかしーー!ごめん!急に立ったりして」

 

 一人でドタバタする勇を見て思わず笑ってしまう紗。

 

勇「なにがおかしいんだよ~」

紗「なにも。なにもかも」

勇「んん?」

紗「成瀬さん、任務頑張って」

勇「(紗を少し見つめて)うん、頑張る。お兄さん!生二つ追加で!」

A「かしこまりましたあ~!生二つ入りまァす!」

B「ありがとうございまァす!」

 

 がやがやしながら暗転していく。

 ここで休憩。

 場所、反乱軍の隠れ家。SE剣で刺す音。

 明転するとそこには殺された反乱軍構成員と血塗れの勇が立っている。

 

勇 「にじゅう・・・くそ、」

梶浦「勇先輩!」

 

 下手から梶浦登場。

 

梶浦「やっと見つけた」

勇 「大知」

梶浦「って、ええ!血塗れじゃないですか!どこ怪我したんですか!?大丈夫ですか!」

勇 「あ・・・これ、俺の血じゃないから大丈夫」

梶浦「そ、うですか。それなら、いいんですけど」

勇 「で、どうしたんだ」

梶浦「あそうです!撤退指示!聞いてなかったんですか!?」

勇 「え?うわヤッベ、また電源落ちてら」

梶浦「あーも~!こまめに確認って何度言ったら覚えてくれるんですか!」

勇 「返す言葉もございません」

梶浦「とにかく早く行かないと連隊長カンカンですよ!」

勇 「悪かったって!」

梶浦「僕も指揮官に怒られることになるんですから~もう!」

勇 「指揮官には俺が話すから!ほら行こう」

梶浦「勇先輩はいっつもそうです!迷惑被るのは何故か後輩の僕!この前の社員証のことだって結局僕の使って出社したじゃないですか(走りながら)」

 

 下手にはける二人。照明変化。

 場所、統括執務室。上手から御子柴登場。

 

御子柴「全く、手のかかる駒だ」

 

 下手から勇登場。

 

勇  「成瀬、帰還しました」

御子柴「これで何度目だ?」

勇  「え」

御子柴「通信機は電源を入れないと使えないということをいつになったら覚えるのだ?」

勇  「ぐう~・・・ほんとすいません!でも今回は、」

御子柴「それになんだね、その汚らしい身なりは。血ぐらい拭いてくるものだ」

勇  「ぐっ、すいません」

御子柴「だがまあ、それらしくなってきたではないか」

勇  「それらしく?」

御子柴「血塗れのエース。その華々しい活躍は返り血の量を見ればわかるものだ。それとも、それはみっともなく負傷した負け犬の勲章かね?」

勇  「返り血ですけど、」

御子柴「お前はいずれ我が社を担う存在になる。一心にみなの期待を背負い英雄として崇められるのだ。悪い話ではないだろう、喜べ」

勇  「・・・報告書は明日までに提出します」

 

 下手にはけようとする勇。

 

御子柴「フン、つまらん男だ」

 

 御子柴を一瞥して下手にはける勇。

 

御子柴「まあいい。従順な手駒である限りは大目に見てやろう」

 

 上手にはける御子柴。

 場所、社内の廊下。下手から血を拭きながら勇登場。上手側へ歩いていく。ドアからリンギット登場。

 

リン「成瀬」

勇 「んあ、風斗」

リン「間抜け。拭いてから出歩け」

勇 「ああ、わり」

リン「何だよ、怪我でもしたのか?」

勇 「別にこれは・・・って、風斗」

リン「んだよ」

勇 「出会い頭に嫌みはよせよ」

リン「気になるモンだろ、血まみれの馬鹿が社内歩き回ってたら」

勇 「悪かったな」

二人「・・・」

勇 「それだけか?」

リン「それだけだ」

 

 下手へスタスタと歩いていくリンギット。

 

勇 「なあ」

リン「あ?」

勇 「シャワー、貸してくんね?」

リン「軍の・・・ったく、来いよ」

勇 「ああ・・・サンキュ」

 

 ドアへはける勇とリンギット。

 場所、総務デスク。

 

リン「タオル奥だ」

勇 「おう」

 

 勇は上手へシャワーを浴びに行く。

 

リン「チッ・・・俺は何を」

 

 音楽を流し座って目を瞑ったまま聞くリンギット。

 しばらくすると勇が戻ってくる。

 

勇 「あんがと」

リン「おう」

勇 「こっちのシャワーいいな」

リン「給料の違いよ」

勇 「え、マジ」

リン「お前の倍・・・もっとか?まあ、そういうこと」

勇 「さっすがリバース・・・」

リン「異動すっか?」

勇 「俺には向いてない」

リン「どうだか」

勇 「なんだよ」

リン「血はどんどんこびりつくもんだ。その内洗っても取れなくなる」

勇 「・・・そう、なのか」

リン「お前はそうじゃないんだろ?」

勇 「こんな時でも意地悪いのな・・・いや、でもそうがいいよ。そうがいいよなあ」

リン「・・・」

勇 「・・・俺もっとかっこいいもんだと思ってた。それこそヒーローみたいなさ、キラキラした」

リン「ヒーローなんざ何人殺せばなれるかって話だ。殺せば殺すほどヒーローに近づいていく」

勇 「・・・誰も、守れなかった」

リン「それが任務だったんだろ」

勇 「任務だけどさ、やっぱ、ただの一般人なんだよ。殺す必要なんて無いはずだろ」

リン「殺らなきゃ殺られるだけだ」

勇 「それって、やっぱ割り切り?」

リン「・・・割り切りだ」

勇 「(大きく息を吸って)はあー・・・割り切りか」

 

 間

 

リン「お前にゃ向いてねえよ」

勇 「うん?」

リン「お前が言ったんだぜ。認めたら、生きてけねえって」

勇 「・・・」

リン「抗えよ。図太くさ」

勇 「・・・風斗、」

リン「まあ好きにしろよ。人にどうこう言われてハイハイ従うお前じゃねえだろ」

勇 「・・・ああ。そうだな」

 

 間。

 

勇 「シャワー、サンキュー。戻るわ」

リン「おう、タオルは持ってけ。汚ぇから」

勇 「汚くねえよ!ったく。じゃーな」

 

 ドアへはけようとする勇。ドア前で立ち止まって振り返る。

 

勇「ありがとな。話聞いてくれて」

 

 返事も聞かずにはける勇。

 

リン「別に、そんなんじゃねえよ」

 

 間。

 

リン「盗み聞きたァ随分趣味悪いじゃねーの」

 

 下手からルピア登場。

 

ルピア「ありがとうの一言も言えないの?」

リン 「・・・悪りィ」

ルピア「あ・り・が・と・う」

リン 「アリガトウゴザイマス」

ルピア「・・・及第点だけどまあいいわ」

 

 必要な書類を探すルピア。

 

リン 「なんで隠れてたんだよ」

ルピア「わざわざ聞くの」

リン 「別に出てくりゃよかっただろ」

ルピア「男同士の会話に水差すほど空気の読めない女じゃないの」

リン 「あれ、お前そんなイイ女だったっけ」

ルピア「言ってもいいんだけど?アンタの思ってること」

リン 「大層べっぴんさんなこって」

ルピア「おべっかヘタクソなの?そんなんじゃ一生彼女できないわね」リン「お前は目上の人間じゃねえだろ」

ルピア「馬鹿ね、男ってホント」

 

 居づらくなったのかドアへはけようとするリンギット。

 

ルピア「眩しいのはわかるけど、そこに貴方はいないのよ」

リン 「・・・わーってるよ」

 

 はけるリンギット。入れ替わりでドン、セディが入ってくる。

 

セディ「ただいま戻りましたー・・・ってルピアさんだけですか」

ルピア「リンギットとはすれ違ったでしょ。リエルは知らないけど」

ドン 「アイツ、様子がおかしかったぞ」

セディ「なんとなーくですけど、神妙な面持ち?でしたね。何かあったんですか」

ルピア「私とじゃないけどね。ま、今はそっとしておきなさい」

ドン 「・・・そうか」

セディ「それで納得しちゃうんですか」

ドン 「それだけの付き合いだ」

セディ「いいなあー羨ましいなあー」

ルピア「アンタは同期いないしね」

セディ「みんなが賢くて僕だけが馬鹿みたいな気分ですよ」

ドン 「リバースに選ばれたことに変わりはない。誇りを持て」

セディ「ま、そうですね」

 

 三人がそれぞれ仕事をしているとドアからリエルが登場。

 

セディ「あ、リーダー」

リエル「・・・リンギットはいないわね」

ドン 「どうした」

リエル「三人だけに聞いてほしいの。反乱因子のリーダーがわかった」

 

 一同に緊張が走る。

 

リエル「名前は詠村紗。中小企業で働く事務職員で二五歳。性別は女よ」

ルピア「どうして私達だけに?」

リエル「聞いていればわかるわ」

ドン 「・・・わかったが、どういう経緯なんだ」

リエル「成瀬勇。彼は最近まで社員証を紛失していたらしく、後輩の社員証を借りて正面ゲートを通っていたらしいの。けれどゲートには彼の社員証で何者かが通ったというログが残っていた。つまり別の何者かが成瀬勇の社員証を使い社内に侵入していたということが判明したの」

ルピア「それが?」

リエル「いえ。実際に侵入していたのは十文字傘下の企業に勤める男だった。打ち合わせと称して侵入していたようね。防犯カメラにもその男の姿は映っていたわ」

セディ「案外しっかりしてるんですね。これだけなら尻尾は掴めない」

リエル「そう。でも一つだけミスがあった。あの社員証はどこから入手されたのか」

ドン 「成瀬が社員証を落としたであろう場所、か」

リエル「あの社員証は成瀬勇がリンギット、詠村紗と飲んでいた時に落としたらしいの。そしてそう言って成瀬勇に返したのが詠村紗だった」

ルピア「なるほどね。色々と合点がいくわ」

リエル「彼女の近辺を洗うのは簡単だったわ。素人の偽装といったところね。粗が酷かったの」

セディ「そうか、だから先輩のこと・・・」

リエル「そんなことはないと思うけれど、万が一を考えて今回は外すことにした」

ドン 「それで任務っていうのは」

リエル「・・・リーダーである詠村紗が住んでいる区画、七番区画一帯を爆破する」

ルピア「なっ・・・!?」

ドン 「あの区画丸ごとを爆破するのか!?」

セディ「いくらなんでもそんな無茶、」

リエル「今回は軍も動くことになった。総動員で爆薬を仕掛け、定刻に爆破。あの区画一帯を焼失させる」

ルピア「焼失ってそんなことしたら関係ない一般市民まで巻き込まれるじゃない」

リエル「・・・見せしめよ」

セディ「リーダーだけじゃなく、関係のない一般人まで殺すことでヘイトを反乱因子達に向ける・・・ここまでえげつない任務は初めてですよ」

ドン 「それは主任も合意した作戦なのか」

リエル「そうよ。主任と御子柴統括、双方が合意した作戦よ」

ルピア「信じられない、主任がそんな・・・」

リエル「・・・私達は爆薬の運搬と設置の補助、そして詠村紗の監視につく。割り振りは追って伝えるからすぐ動けるよう待機していてちょうだい」

ルピア「リエル」

リエル「くれぐれも、リンギットには悟られないように」

 

 ドアへはけるリエル。沈黙。

 

セディ「書類、片づけますか」

ドン 「・・・そうだな。突っ立ていても不審なだけだ」

ルピア「・・・そうね」

 

 仕事に戻る三人。どことなくぎこちない。

 ドアからリンギットが帰ってくる。

 

リン 「おーおー、熱心にお仕事ご苦労様デス」

ドン 「どこ行ってたんだ」

リン 「あ?これだよ、これ(煙草のパントマイム)」

セディ「もう、書類溜まってるんですから早く片付けましょ」

リン 「・・・ああ、そうだな」

 

 大人しく書類を整理するリンギットだったがドンの目の前にきて立ち止まる。

 

ドン 「どうしたリン・・・」

リン 「何隠してる」

ドン 「隠してるって、何のことだ」

リン 「しらばっくれんなよ。俺がわかんねえと思ったのか」

ドン 「しらばっくれたつもりはない。仕事に戻れ」

リン 「・・・おい、セディ」

セディ「・・・僕からは何も言えることはありません」

リン 「ルピア」

ドン 「リンギット。お前もリバースならわかるだろ。これ以上問うな」

リン 「・・・ああそうだな。だが軍も総出でリバースも総出だってのに、俺だけ外されるっつーのはどういうことだ」

ドン 「気づいたのか」

リン 「喫煙所には煙と一緒によーく情報が流れてくるもんでね」

ドン 「・・・俺の口からは、何も言えない」

リン 「ドン・・・!」

ルピア「詠村紗は黒だった。だから殺すの。七番区画丸ごと爆破させてね」

ドン 「ルピア・・・!」

セディ「先輩!」

ルピア「黙ってて」

リン 「・・・それは本当なのか」

ルピア「本当よ」

リン 「・・・なるほどな。どうりで俺だけ外されるわけだ。いや、詠村はそうなんじゃねえかと思ってた。薄っすら、そうだと思って目を向けないようにしてた。ただ、七番丸ごと爆破たあどういうことだ」

ルピア「見せしめ。ヘイト集め」

リン 「だとすりゃまずいのは・・・チッ、間に合えよ・・・!」

 

 ドアへはけるリンギット。

 

セディ「先輩!」

ドン 「ルピア、どういうつもりだ」

ルピア「アンタたち、おかしいと思わないの。私たちは今まで腐った仕事ばっかしてきた。でもなんの罪もないただの一般人を殺すことなんて絶対にしなかった。これだけは絶対に成功させちゃいけない」

セディ「そうは言ったって主任と御子柴統括が双方合意で決めた任務ですよ?どうするっていうんですか」

ルピア「そんなの、こうすんのよ!」

 

 通信機を手に取るルピア。

 

ルピア「リエル!どうせ盗み聞きしてんでしょ!答えなさい、アンタはこのままでいいの!?」

 

 少しの間。

 

リエル『それが、任務よ』

ルピア「そんなこと聞いてんじゃないの!アンタが人として守るべきものはなんだって話してんのよ!私達はもう普通には戻れない。でもだからって人間として生きることを捨てたわけじゃないでしょ!」

リエル『・・・逆らえば、ここにいる全員の命が危ぶまれるわ』

ルピア「ちったあ頭使いなさいよ!任務は遂行する、でも成功はさせない」

リエル『何が言いたいの』

ルピア「爆破はする。でも市民は逃がすの」

リエル『・・・そう、そうか・・・フ、ハハ、ハハハ!』

ルピア「ちょっと何」

リエル『私も主任から聞かされてずっと疑問に思っていた。こんな任務に従う必要があるのかって。でも、そうよね。任務を遂行してこそリバース。私たちは人の道は外れてしまったけど、人間として生きることを辞めたわけじゃない。それでよかったのよ』

ルピア「一人で浸ってるとこ悪いけど時間ないんだから。どうするの、リーダー」

リエル『(大きく深呼吸)ルピア、ドン、セディ。軍が爆薬を設置するまでに市民を避難させるわよ』

ルピア「了解。ほら、アンタたちは?」

ドン 「お前には適わないな」

セディ「リーダーに命令されて従わないわけないじゃないですか」

リエル『よし、では各自これから指定する箇所に向かうように。主任には私が話をつける』

ルピア「さっすが、頼りになる」

ドン 「我らがリーダー、だな」

セディ「ですね」

 

 ルピアは上手、ドンは下手、セディはドアへはける。

 ブルー暗転。

 

御子柴『全隊へ告ぐ。反乱因子の主犯格が判明した。名前を詠村紗。これより奴が住んでいる第七区画を爆破するため至急全隊出動せよ』

 

 場所、統括執務室。御子柴板付き。明転。ドアから勇登場。

 

勇  「統括!さっきのどういうことですか!」

御子柴「おお、いいところに来た。丁度お前を呼ぼうと思っていたのだ」勇「紗が主犯格って、そんなわけないじゃないですか」

御子柴「なんだ、貴様が釣ったんだろう?社員証で炙り出した功績、期待しておきたまえ」

勇  「そんなもんいらないですよ。それよりこんな作戦どういうつもりですか」

御子柴「どういうつもり?見せしめに決まっているだろう。詠村紗も殺し、関係のない市民も死ぬ。怒りの矛先は当然反乱因子どもに向かうわけだ。これほど素晴らしい作戦はないだろう」

勇  「っ・・・!紗を、市民を殺す必要なんてないだろ!!アンタ人の命をなんだと思ってるんだ!(胸倉を掴む)」

御子柴「虫どもの命など、どうして気にかける必要がある。貴様は道端のアリを踏まないよう一々気にかけるのか?仲間に加わりたいのなら今すぐそうしてやるぞ。黙って命令に従え。さもなくば無残に踏みつぶされるだけだ(拳銃を構える)」

勇  「くっ・・・(乱雑に離す)俺は、アンタの駒なんかじゃない・・・!」

 

 ドアへはける勇。御子柴も襟元を直して下手にはける。

 上手からズウォティが歩いてくる。ドアからリエル登場。

 

リエル「主任」

ズウォ「来たか」

リエル「・・・もしかして」

ズウォ「考えてはいた。ただ、その意思がなければ命令するつもりはなかった。それでいいならよかったからな」

リエル「ルピアですよ。流石です」

ズウォ「リバースは私が選んだんだ。当然だよ」

リエル「ドン、ルピア、セディの三人は既に七区へ向かっています。ただリンギットはおそらく成瀬の元へ向かったと思われます」

ズウォ「そうか・・・彼らには苦だろうが、これは遅かれ早かれわかることだった。だからリンギットも彼の元へ向かったのだろう」

リエル「私達にできるのは、市民の非難を完全に完了させることですね」

ズウォ「そうだな。それがせめてもの救いになるはずだ」

 

 下手から御子柴登場。

 

御子柴「勝手な真似は許さんぞ、山本主任」

リエル「御子柴統括・・・!」

ズウォ「何かご用でしょうか御子柴統括。指揮官がこのような場所にいていいのですか?」

御子柴「口を慎め。造反の意があると私がみなせば、貴様らなど爆破と共に始末できるということを忘れるな」

ズウォ「我々が社の不利を働く人間でないことはご存知でしょう」

御子柴「そうだな。だから社の不利にはならないギリギリを渡ろうとしている。だが、作戦指揮である私がそのようなことを許すとでも?全く、どいつもこいつも虫けらごときをまるで一個人のように扱いおって。消耗品など用が済めば捨てるのが当たり前だろうに」

リエル「っ・・・!」

 

 御子柴に掴みかかろうとするリエルを制するズウォティ。

 

ズウォ「統括。貴方は全体をよく俯瞰出来る方だ。故に個というものが見えていない」

御子柴「・・・何が言いたい」

ズウォ「貴方が虫けらと扱うその一つ一つに、戦況をひっくり返す大きな力があるということです。それを見誤ればいずれ足元を掬われる」

御子柴「我が軍の前にそのような・・・」

ズウォ「つまり、今貴方は窮地に立たされているということだ」

 

 御子柴に銃口を向けるズウォティ。

 

御子柴「きっ貴様!そのようなことをして許されると思っているのか!!私がその気になればリバースなど・・・」

ズウォ「私がその気になれば、貴様をあらゆる手で失脚させることも可能ということだ」

御子柴「っ・・・!」

ズウォ「リバースとは、社の利益のためになら如何なる手を用いてもその任務を遂行します。くれぐれもお忘れ無きよう・・・(リエルに)行くぞ」

リエル「はい・・・!」

 

 しりごむ御子柴を素通りし、下手へはけるズウォティとリエル。

 

御子柴「クソ・・・このままでは済まさんぞ・・・!」

 

 立ち上がり上手へとはける御子柴。

 ブルー暗転。SE車の走行音。場所、軍用護送車内。

 下手から大知が登場して座る。ちょっとしてからドアから勇が登場して梶浦の隣に座る。

 

梶浦「僕たち、中心のD400ですよね」

勇 「・・・」

梶浦「・・・ほんとに、やるんですね」

勇 「・・・」

梶浦「・・・勇先輩」

勇 「・・・大知は、どう思う」

梶浦「どう?」

勇 「こんな作戦に意味なんかあるのかって」

梶浦「・・・わかりません」

勇 「・・・」

梶浦「わかんないですけど、僕たちは十文字の軍人です。指揮官の言うことは絶対ですし、それがルールですから」

勇 「・・・守りたいモンを守れないルールって、なんのためにあるんだろうな」

梶浦「・・・そんな風に考えるの、勇先輩だけですよ」

勇 「そうか?」

梶浦「そうですよ。みんな言われたことをこなすのに必至で、そんなこと考えたことないと思います。僕だって勇先輩と話すまで考えたことなかったし」

勇 「・・・」

梶浦「勇先輩は、すごいです」

勇 「・・・すごくなんかない。だって人が死ぬんだぞ」

梶浦「・・・そう、ですね」

 

 沈黙。

 

勇 「そうか、簡単なことだったんだ」

梶浦「へ?」

勇 「守りたいなら、守ればいいんだ」

 

 立ち上がってドアへ歩こうとする勇。

 

梶浦「勇先輩!?」

勇 「悪い、大知。俺、行くよ」

梶浦「行くって・・・そんなことしたら・・・!」

勇 「やっぱ俺って檻の中じゃ生きていけないみたいだ」

梶浦「っ、」

 

 梶浦が腕を掴むのを一瞬ためらったがために行ってしまう勇。

 

梶浦「・・・後輩に手をかけさせるなんて、最低です。先輩のバカ」

 

 暗転。

 場所、居酒屋。AとBが板付き。開店準備をしている。

 明転。ドアから勇が登場。

 

B「お客さんすいません、只今開店準備中でして・・・」

勇「紗、いるか」

A「何のご用でしょうか」

勇「詠村紗に伝えたいことがある」

B「・・・軍の方ですよね」

勇「アンタ達に敵意はない。むしろ助けに来たんだ」

A「・・・俺が聞こう」

勇「紗に会わせてくれ」

A「今度は何を企んでる」

 

 下手から紗登場。

 

紗「光一、私聞くよ」

A「紗」

勇「やっぱここだったか」

紗「・・・できれば、知られたくなかったです」

A「紗・・・!」

紗「お願い、話させて。何かあったら呼ぶから」

B「光一、行こう」

 

 不満そうにしながらも下手にはけるAとB。

 

勇「悪いな。ありがとう」

紗「ううん。なんとなくこんな日がくるかもって思ってたから」

勇「・・・それだけならまだよかったんだけどな」

紗「・・・?」

勇「第七区画が爆破される」

紗「え・・・」

勇「紗がいるこの七区を丸ごと爆破して、お前達だけじゃなく一般市民までも巻き込もうとしてる。それが軍の作戦だ」

紗「そんな・・・みんなを・・・」

勇「もう軍は動いてる。時期に爆弾も設置される」

紗「・・・」

勇「だから、助けにきた」

紗「・・・え」

勇「俺は紗を助けたい。だから来たんだ。信じらんないかもしれないけど」

紗「てっきり自主させにきたんだと・・・でも、どうして」

勇「だーかーら、紗を助けたいんだって。それじゃダメか?」

紗「だって私は成瀬さんの敵だから」

勇「だって俺は紗の友達だから」

紗「(何か言おうとするけど言葉にならない)」

勇「ダメか」

紗「・・・ダメじゃ、ないです。ないですけど、それじゃ成瀬さんが」

勇「俺はそれでも自分が守りたいもんを守りたい」

紗「・・・成瀬さん」

勇「時間はあまりない。できるだけ多く助けるためにはみんなの力が必要なんだ」

 

 少しの間。

 

紗「・・・わかりました」

勇「ありがとう、紗」

紗「ありがとうはこっちの台詞ですよ」

勇「それは全部終わってからな」

 

 紗、頷き下手にはけてAとBを呼び戻す。

 

紗「単刀直入に話すね。私達の活動がバレた。それと、もう少ししたらこの七区が爆破される」

B「七区を・・・!?」

紗「(頷き)でも、成瀬さんが協力してくれる」

A「協力してくれるって、ソイツ十文字軍だろ」

紗「そうなんだけど、それでも言ってくれたの」

A「紗、こんなん罠に決まってんだろ!コイツを餌に俺らを一網打尽にする気なんだよ!」

勇「そんなこと絶対にしない。紗は俺の大事な友達だから」

A「口では何とでも言える。大体、紗のことバラしたのもお前かもう一人の男なんだろ」

勇「違う!俺は寧ろ嘘であってほしかったんだ」

紗「光一。成瀬さんは軍の規律を無視してまでここにきた。十文字を敵に回したってことなんだよ」

A「それを証明できるのか」

紗「できない。でも、私を信じて」

 

 沈黙。

 

A「やっぱり、ソイツを信じることはできない」

紗「光一・・・」

A「紗・・・(何か言いたそうにするが何も言えない)」

 

 下手へはけるA。

 

B「光一!」

紗「遥(Bを制止する)」

B「なんで・・・!」

紗「・・・仕方ないから。私の自業自得だから」

B「紗・・・ウチもだけど、やっぱおかしいよ。その人ウチらの仇かもしれないんだよ」

紗「・・・うん」

B「どうしてそんな、」

紗「光一も遥も成瀬さんも、みんな大切な人だから」

B「・・・わかった。ウチはついて行くよ」

紗「・・・ありがとう、遥」

勇「ごめんな、俺のせいで」

紗「いえ。それより一秒でも早く動きましょう」

勇「ああ。まず地図あるか?できれば七区だけの。あとペン」

B「持ってくる」

 

 下手から地図とペンを持ってくるB。

 

勇「サンキュ」

 

 地図を広げて書き込む勇。

 

紗「それは?」

勇「爆弾の設置位置だよ。まあ俺が見て覚えてる分しか書き込めないから・・・俺が担当するはずだったこの中央と近辺のはわかんだけど、区の境目はちと曖昧だ」

紗「なるほど。でもこの辺りが分かれば、とりあえずはなんとかなるかも・・・」

勇「まず、だ。中心地であるこの中央一帯を吹き飛ばすのがここ、第七原発にある爆弾。これが一番火力も高い」

紗「じゃあここのをなんとかすれば」

勇「かなり被害は抑えられる、と思う」

紗「どうすればいいですか?」

勇「まずは軍が設置するのを待つ」

B「それじゃ遅くない?」

勇「いや、逆に設置の隙を狙おうとしたらこっちがやられる可能性が高い。人数も時間も限られてるし確実に解除できる方を取ろう」

B「なるほど」

勇「設置後は爆破まで時間がある。奴らも安全圏まで撤退しないと巻き添えを食らうからさ。そこなら狙われることなくできるはずだ」

紗「わかりました。この印のあたりに人を待機させます」

勇「頼んだ。あ、あとできれば一般市民の人たちにこっそり逃げるように声かけてくれ。あんま大々的にやるとこっちの計画がバレるかもしんないから慎重に」

紗「(頷く)」

 

 スマホで連絡をとる紗。

 

B「・・・ウチはまだアンタを信じたわけじゃないから。紗に何かあったら絶対に許さない」

勇「わかってる。そのために来たんだし、アンタのボスは絶対守るよ」B「・・・」

紗「よし、これで大丈夫だと思う」

勇「俺たちも行こう」

B「こっち、裏口だから」

 

 上手にはけようとする三人。勇が途中で立ち止まる。

 

紗「どうしたんですか」

勇「・・・いや、ちょっと気になることがあって。でも多分大丈夫だ」

B「ちょっと二人とも!」

勇「ああわりい!」

 

 はける三人。

 ちょっと後にリンギットがドアから登場。部屋の中を一通り捜索。

 

リン「チッ・・・もぬけの殻か」

 

 通信がくる。

 

リン 「あー・・・リンギットです」

ズウォ『少しは反省しているようだね』

リン 「あぁ・・・しかも主任」

ズウォ『リエルも出払ってしまってね』

リン 「すいません」

ズウォ『彼は?』

リン 「既に。おそらく詠村と」

ズウォ『彼はこのD400の担当だったようだ。爆弾の位置もわかっているはず』

リン 「ここっつったら・・・原発か」

ズウォ『ああ。あそこが一番火力も強い。優先するだろう』

リン 「他の奴らもそれぞれに?」

ズウォ『いや、彼らは軍より先に動いて住民の避難誘導をしている』

リン 「・・・それって」

ズウォ『私の判断はリバースの判断さ。御子柴統括には色々言われたが釘を刺しておいた』

リン 「なんつーか一番怖いのは主任っすよね」

ズウォ『君の担当区域は相棒がカバーしてくれているよ』

リン 「うう~ん。上手い。敵いませんわ」

ズウォ『早く行きなさい。もし軍に見つかろうものなら手遅れになる』

リン 「・・・了解」

 

 通信を終え、ドアにはけるリンギット。

 照明変化。場所、十文字原発。上手から勇と紗登場。

 勇、下手を覗き込んで軍の存在を確認する。

 

勇「いる」

紗「もうあんなに・・・」

勇「今は隠れるしかない」

紗「・・・」

勇「もどかしいけど堪えるしかない」

紗「・・・」

勇「紗、大丈夫か」

紗「あ・・・はい」

勇「心配なんだな」

紗「・・・もしあちこちが爆発してしまったら、仲間も関係のない人達も・・・怖いんですよ」

勇「怖い?」

紗「私のせいで、私のせいだから」

勇「紗は悪くない」

紗「でも、」

勇「他の誰でもない、紗が許さないと」

紗「・・・(頷く)」

 

 紗の震える手を握る勇。

 

勇「もうそろそろ引くはず・・・よし」

 

 下手を確認して行こうとするがドアから微かに足音が聞こえてくる。

 

勇「気付かれてる・・・!?紗、向こうに隠れてくれ(上手を指す)」

 

 頷き上手に隠れる紗。剣を構える勇。

 ドアから現れるリンギット。

 

リン「よお」

勇 「リンギット」

リン「隊列乱してんなよ劣等生」

勇 「冗談言うためにきたのか?」

リン「わかってんなら戻れよ」

勇 「そういうお前はこんな隅っこ担当なわけ」

リン「馬鹿を一人連れ戻しに来ただけだ」

勇 「悪いけど、いくら言われたって戻らないぜ」

リン「・・・今ならまだ間に合う」

 

 銃を構えるリンギット。

 沈黙。

 

勇 「お前にも守りたいもんがあるだろ」

リン「・・・じゃなきゃやってねえよ」

 

 向かい合う二人。一瞬の間。次の瞬間には戦いあっている。

 殺陣・・・リンギットは銃、勇は剣で応戦。勇が近接戦闘に持ち込んでリンギットの銃を弾き飛ばす。その後体術戦。最終的にリンギットが勇を組み伏せて銃を構える。

 

勇「撃てよ」

 

 沈黙

 

リン「リバースは今、住民の避難誘導に回ってる」

勇 「・・・」

リン「だから来い。それからだ」

勇 「お前・・・」

 

 銃をおろし、手を差し出すリンギット。

 

リン「おら立て。時間がねえ」

勇 「(手を取り)うん、ありがとう」

リン「チッ、綺麗事じゃねえぞ。今だけだ。これが終われば俺はお前も・・・連れて行く」

勇 「・・・逃げるさ、その時は」

リン「させるかよ」

勇 「先にここの爆弾を解除させてくれ。すぐ追いつく」

リン「さっさとしてこい」

 

 下手に行こうとする勇。

 

A「お前に紗はやらせるかあああ!!」

 

 下手から飛び出し勇の腹を刺すA。よろめく勇。

 声に気づいて上手から飛び出す紗。

 

A「このっ、裏切り者が・・・!!」

 

 Aを撃つリンギット。

 

リン「成瀬!(二人同時)」

紗 「光一!(二人同時)」

 

 現れた紗にこっちに来ちゃダメだと首を振りすぐに倒れる勇。

 それを受け止めるリンギット。傷を確認し止血しようとするが血が止まらない。

 

リン「クソッ・・・!」

勇 「・・・ハァ、ハー・・・風斗、」

リン「おい喋んな」

勇 「いい、から・・・はぁ、はぁ・・・行け」

リン「ざけんな!お前を連れて帰んねえと意味ねぇんだよ!!」

 

 勇を支えて歩き出そうとするリンギット。

 原発内に響き渡るピーっという大きな音。

 リンギットを突き放す勇。ふらふらしている。

 

勇 「俺は、はぁっ、お前が・・・みんなが生きててくれないと、意味、ないんだ」

リン「だったら尚更、」

勇 「行け・・・四十分、だ」

 

 倒れる勇。駆け寄ろうとするリンギット。

 リンギットの後ろで銃を構える紗。銃を構える手は震えている。

 

紗「離れて」

 

 振り向かないリンギット。

 

紗「そのまま行きなさい」

 

 動こうとしないリンギット。

 

リン「・・・撃てよ」

紗 「・・・」

リン「お前らの仇だぜ。撃てよ」

紗 「(リンのセリフに被せて)お願いだから行って!!」

 

 一発だけ発砲。かすり傷一つつかない。

 

紗「お願い・・・その人から、離れて・・・」

 

 少しの沈黙。

 動き出すリンギット。紗の顔は決して見ずにドアへはける。

 リンギットがはけきってから勇に駆け寄る。

 

紗「成瀬さん」

 

 ゆすったりするが反応はない。

 

紗「成瀬さん・・・っ、」

 

 勇を支え引きずりながらも二人で脱出を試みる紗。

 

紗「私、生きて帰りますから・・・成瀬さんを、助けますから・・・絶対、絶対・・・!」

 

 ドアにはけていくのに合わせて暗転していく。

 場所、総務デスク。明転。リンギット、ドン、ルピア、セディ板付き。

 それぞれ仕事をしているがリンギットはサボっている。 

 新聞を見ているルピア。

 

ルピア「十文字第七原発が爆発・・・たった一日で廃都市に。主犯は反乱グループか」

セディ「あーやだやだ。ここ数日この話題ばっかり」

ドン 「それもそうだろう。七区が丸ごとなくなったんだ」

セディ「ん~、そうですねえ。頑張ったけど、どうにもならなかった人もいたし」

ルピア「予定時刻を大幅に繰り上げた御子柴統括になんのお咎めもなしっていうのが解せないわ、ほんと」

ドン 「どこまでいってもあの人は自分の損得にしか目がないんだ。どうしようもない」

 

 ドアからリエル登場。

 

リエル「主任にあれだけ言われてもやるなんて命知らずよ。まあ、それが今の十文字だから。腐ってるのはどこも同じなのかもしれないわね」

セディ「また追加ですか~?」

リエル「ええ」

ルピア「結局尻ぬぐいは私達がするんだから。どうなったって変わりゃしないのよ」

 

 立ち上がるリンギット。書類をリエルに手渡す。

 

リン 「ん。終わった分」

リエル「あら、珍しい」

リン 「残りは明日片すわ」

 

 上手へはけるリンギット。

 

セディ「あ、ちょ先輩まだ書類・・・」

ルピア「セディ。ほっときなさい。仕事溜まるのはアイツなんだから」

セディ「先輩の言いたいことはわかりますけど」

ドン 「アイツはあれでいて割と人間だからな」

ルピア「・・・影響されたのもあるでしょう」

リエル「そうね。だから尚更」

ルピア「不毛よ。どうしたって変わらないものがあるんだから」

 

 無言で仕事をする面々。

 

ルピア「あーあ、私も休憩。糖分糖分」

セディ「あ、先輩ずるい!僕も行きまーす」

 

 ルピア・セディがドアへはける。

 

ドン 「おいおい」

リエル「行かなくていいのかしら」

ドン 「相棒の尻ぬぐいも俺の仕事さ」

リエル「お互い苦労尽きないわね」

ドン 「そうだな」

リエル「どう、一服?(煙草のジェスチャー)」

ドン 「あー・・・普段は吸わないんだが」

リエル「ハイライト十七ミリ」

ドン 「キツ」

 

 ドンとリエルもドアへはける。

 場所、反乱軍のアジト。照明変化。上手からB、下手から紗登場。

 

紗「どう、そっちは?」

B「概ね。瓦礫の山はウチじゃどうにもできないから」

紗「そうだよね。お疲れ」

B「男手がほし~い!」

紗「・・・うん」

B「あ・・・ごめん。そういうつもりじゃなかったの」

紗「大丈夫、わかってるよ」

B「・・・」

 

 下手から飲み物を取ってくるB。

 紗の頬に飲み物をあてる。

 

紗「ひや!」

B「ふふん。はい(手渡す)」

紗「びっくりした・・・ありがとう」

 

 飲む二人。

 

B「紗は笑ってる方がいいよ」

紗「え?」

B「ウチもいるし、みんなもいるよ」

紗「・・・うん」

B「今度はさ、居酒屋じゃないのがいいな」

紗「じゃないの?」

B「んー、バーとか」

紗「バー・・・」

B「静かだし、こぢんまりとしてていいよ。大声出さずに済むし」

紗「・・・うん、そうだね」

B「・・・紗さ、他のとこ見てきなよ。息抜きがてら」

紗「え、でもまだここ」

B「いいから!紗が元気になってくれた方がウチは嬉しいんだから」

紗「・・・ありがとう、遥」

B「なんも。ほら行ってきな」

紗「うん。行ってきます」

 

 上手にはける紗。

 

B「元気で、笑顔でいてくれるのがウチもみんなも・・・光一も嬉しいんだから」

 

 下手にはけるB。ブルー暗転。

 場所、バー。ママ板付き。上手から紗登場。

 

ママ「いらっしゃい・・・って紗ちゃんじゃない!久しぶり~!」

紗 「どうも」

ママ「最近はだぁ~れも来ないから暇してたのよォ。嬉しいわァ。ほら、座ってちょうだい」

紗 「はい」

 

 座る紗。

 

ママ「喜びの大サービス。一杯奢りよォ」

紗 「わ、ありがとうございます」

 

 飲む紗。

 静かな間。

 

ママ「七区で爆発があったじゃない?それに巻き込まれてないか心配だったのよォ」

紗 「・・・私はなんとか」

ママ「・・・そう。でもよかったわ、顔見て安心した。他の二人も早く会いに来てくれると嬉しいんだけど」

紗 「・・・そう、ですね」

 

 下手からリンギット登場。

 

リン「コイツと同じの」

ママ「あらふうちゃん!噂をすればなんとやらねェ~!」

紗 「一堂さん・・・!」

リン「んだよ。オバケでも見たようなツラしやがって」

紗 「あ、いや、」

リン「隣、座るぞ」

 

 紗の隣に座るリンギット。

 

ママ「はい同じの。ふうちゃんにも喜びの一杯サービスよォ」

リン「気前いいじゃん」

ママ「七区の爆発のおかげで誰も来ないのよォ。商売あがったりだわァ」

リン「んなこったろーと思ったわ」

ママ「あらヤダふうちゃんが優しい!チューしちゃうわよォ~~!」

リン「やめろ近づくなバケモノ!!」

ママ「んもう連れないわねン」

 

 下手にはけるママ。

 妙な間。

 

リン「ん(グラスを持つ)」

紗 「え」

リン「乾杯」

紗 「あ、えっ、と・・・乾杯」

 

 二人して飲む。

 間。いたたまれなくなって口を開く紗。

 

紗 「あの」

リン「?」

紗 「・・・お久しぶりです」

リン「おう」

 

 間。会話が続かない。

 

リン「店なくなっちまったな」

紗 「・・・?」

リン「居酒屋。結構気に入ってたんだけどよ」

紗 「そう、ですね」

リン「酒恋しくなったか」

紗 「・・・そんなような、違うような」

リン「ふうん」

 

 飲み干すリンギット。

 

リン「怪我、ないか」

紗 「大した怪我は・・・掠り傷ぐらいです」

リン「そっか・・・無事ならいい」

 

 間。

 

紗 「・・・無事なんかじゃないです」

リン「・・・?」

紗 「あの日からずっと、ここが痛い(胸に手を当てる)・・・痛いんです」

リン「・・・」

紗 「あの時ああすればよかったとか、こうすればよかったとか、そんな後悔ばっかり。失うだけ失って、得られたものは何もなくて、ただ大切なものがなくなっていっただけ。私は、私がやってきたことは、」

リン「アイツが守りたかったのは、俺らが生きてる未来だった」

紗 「そこに成瀬さんがいないじゃないですか!」

リン「だから!」

 

 拳を握りしめるリンギットを見て黙る紗。

 

リン「・・・俺だって、そうだ」

紗 「・・・」

リン「後悔だらけでどこにもいけやしねえ」

紗 「一堂さん・・・」

リン「大体アイツは自分勝手なんだよ。何もかも振り回してめちゃくちゃにしていなくなりやがって・・・残された人間の身にもなりやがれ」

 

 突然立ち上がり一気飲みをする紗。

 

紗 「今日よりいい明日が来るのは、いいじゃんって、いいねって二人で話したじゃないですか!そう言ったアナタがここにいないなんて、ふざけんなああ!!」

リン「おい・・・?」

紗 「バカ、アホ、間抜け、自分勝手で自由人、いつも笑顔で明るくて、頼りになって、優しくて、強くて・・・それなのに、なんで・・・なんで死んじゃったんですか・・・!」

リン「詠村・・・」

紗 「・・・私、成瀬さんが好きだった。だから生きててほしかった」

 

 沈黙。

 

リン「ヒーローってよお、遅れてくるもんだろ」

紗 「え・・・?」

リン「だから遅れてくるんだよ、アイツは」

紗 「っ・・・(何度も頷く)」

 

 下手からママ登場。

 

ママ「ハァイ、お通しよォ」

リン「サンキュ」

紗 「ありがとうございます」

ママ「あらァ、うっかり。勇ちゃんいると思って多く作りすぎちゃったわァ」

紗 「・・・、」

ママ「勇ちゃんも来るといいわねェ」

リン「ヒーローは遅れてやってくるってな」

紗 「うん・・・きます、きっと」

ママ「・・・あら、グラス空じゃない。もう一杯ついであげるわ」

 

 それぞれのグラスに注ぐママ。

 

ママ「ギムレット。どうぞ」

 

 注がれたグラスに口をつけるリンギット。

 

リン「つれえ」

紗 「・・・はい」

ママ「お客さんもこないし、アタシも飲もうかしら」

 

 三人乾杯する。ゆっくり暗転していく。

 場所、どこかの拠点。リンギット板付き。明転。

 BGM、飛行艇。

 

リン 「こちらリンギット。G105に到着、応答願いまァす」

リエル『よし、全員揃うまでそこに待機よ』

リン 「りょーかい」

ルピア『こちらルピア。私もそろそろ到着するわ』

リン 「レース最下位はどいつだァ?」

セディ『僕ももうそろ着きます』

ドン 『こちらドン。G200に到着』

リン 「はいドン2位な~」

ルピア『ちょっと遊んでんじゃないわよ』

リン 「おいおいそういうお前は最下位候補だぜ?最下位だったらコーヒー奢りな」

セディ『えっそんなの聞いてないですよ~!』

リン 「緊張感キンチョーカン。気張ってけ?」

ルピア『じゃあ一抜けね。最下位はセディ』

セディ『ええ~マジですか!ま、まさか全員分・・・?』

リエル『ルピア、貴方まで乗らないで。収集がつかなくなる』

ルピア『ンフフ、ごめんごめん』

ドン 『緊張感だ、リンギット』

リン 「持ってる持ってる」

リエル『今回も軍と共同なんだから、詰めが甘ければ御子柴統括につつかれるのは私達なのよ』

リン 「あーめんどくせ。わーってるよ。あのデブにゃつけこませねえ」

ルピア『そうね、私達にあーだこーだ言えるのは主任だけなんだから』

リン 「それに俺たちを誰だと思ってんだよ」

セディ『僕たちはリバースですから。あ、セディG305に到着しました』

リン 「ちゃっかりいいとこ取ってんじゃねえ」

リエル『フ、そうね。私たちはリバース。きっちり任務を遂行させてやりましょう。包囲網を展開しつつ追い込むわよ』

リン 「あいよ(同時)」

ドン 『了解(同時)』

ルピア『了解(同時)』

セディ『了解です(同時)』

 

 後ろを黒い影が通って下手に消える。リンギットはそれが勇のように見えてしまう。

 

リン 「っ、わり、一瞬抜ける」

ルピア『はあ!?ちょっとリンギット!』

 

 通信を切り、影を追いかけるリンギット。

 同刻、反乱軍サイド。上手から紗。下手からB登場。

 

紗「遥!」

B「紗!大丈夫!?」

紗「うん、私はなんとか。それより向こうのB班がやられちゃって」

B「うー、マジか・・・Cはなんとか持ちこたえてるよ。後はDがなんとか持ち出してくれれば・・・」

紗「ギリギリかな」

B「Dの半分をBに向かわせたら?」

紗「いや、ここで人数を割いても薄くなるだけだよ。プランを変えよう。ほんとは全部持ち出したかったけど必要最低限にして逃げるのを優先」

B「うん」

紗「物の一つや二つ、みんなの命と比べるまでもないから」

B「なんか少し変わったね」

紗「え?」

B「頼もしくなったっていうか、まっすぐっていうか」

紗「まっすぐ?」

B「後ろ向きで歩いてたもん」

紗「・・・うん、ほんの少し変わったかもしれない」

B「んじゃ、行くか!ウチはDの手伝いしてくる」

紗「わかった。私はBの側を気に掛けておくから。何かあったら連絡する」

B「おっけい!」

 

 下手にはけるB。

 

紗「少しだけ、変われたんですよ、私」

 

 下手から黒い影が紗の後ろを走り去って上手へ消える。

 

紗「えっ、そんな」

 

 影を追いかけ上手へはける紗。

 照明変化。センタースポット。センター後方に勇登場。

 

勇「俺さ、ヒーローってもっとかっこいいもんだと思ってた。でも現実は誰も救えなくて、何も守れなくて。そんな自分が嫌だった。守りたいモン何一つ守れなくて何がルールだ、何のための力だって。でも簡単なことだったんだ。守りたかったら守ればいい。たったそれだけのことを気付くのに随分と遠回りしちまったよ。あと少し遅かったら手遅れになってたかもしれない。でもよかった。俺の大切なモンを、大切な人達を守れたんだ。もう立派なヒーローじゃん、俺?やっぱあの言葉ってほんとだったんだな。ほら、ヒーローは遅れてやってくるってさ!」

 

 かっこよくポーズ決める勇。

 リンギットが下手から、紗が上手から、二人同時に登場。

 曲の終わりに合わせて、互いに銃を構える。そこで暗転。

 完。